文字の大きさ

ニュース〜医療の今がわかる

スーパー総合の検証に着手―都の周産期医療協議会

 昨年秋に都内で起こった妊婦の救急受け入れ不能の問題を受け、重症の妊婦を必ず受け入れる「スーパー総合周産期センター」の設置を決めた東京都の周産期医療協議会が5月21日、今年度の初会合を開催した。スーパー総合への搬送につながらなかったケースの情報を収集して運用状況の検証を行うほか、NICU満床で受け入れた場合の新生児への対応や、都外から搬送依頼があった場合の受け入れの可否などについても検討していく方針を決めた。(熊田梨恵)
 

 この協議会は都が毎年度2,3回の頻度で開催し、都内の周産期医療体制の整備について議論する場。昨年度は、10月末に都内で脳出血を起こした妊婦が、都立墨東病院を含む8つの救急医療機関に受け入れを断られ、最終的に受け入れられた墨東病院で死亡した問題を受け、重篤な状態の妊婦を24時間体制で受け入れる「母体救命対応周産期母子医療センター(スーパー総合周産期センター)」の設置を決めた。
*スーパー総合の詳細はこちらを参照
  
会場様子.jpg 今年度はスーパー総合の運用状況を検証し、新生児医療との連携など積み残しになっている検討課題に取り組む。また、猪瀬直樹東京都副知事が中心になって実施した周産期医療体制整備プロジェクトチーム(PT)が出した、周産期救急の搬送コーディネーターの設置などを求める報告書の内容の実現に向けて議論する。今年度の会長には、前年度に引き続き岡井崇昭和大教授が選出された。
 
■スーパー搬送第一号は日大付属板橋へ
 スーパー総合の運用の検証に関する議論では、事務局から、5月17日にスーパー総合に受け入れられた初のケースがあったと報告された。都の資料によると、自宅で倒れている妊婦を見つけた家族が119番通報し、救急隊の観察によって「スーパー母体救命」と判断された。当日のスーパー総合の輪番は昭和大病院だったが、患者の自宅から近かったもう一つのスーパー総合の日大附属板橋病院が受け入れ可能だったため、同院に搬送となった。救急隊が現場に到着してから受け入れ先が決まるまでにかかった時間は25分。初診時の診断名は重篤・けいれん重積発作で、妊婦は入院後に帝王切開となった。20日時点では母子ともに入院していた。

■スーパーにつながらなかった事例報告を
 岡井会長は、救急隊がスーパー総合への搬送が必要と判断するケースが発生しても、近隣の医療機関で受け入れられた場合には、同協議会に報告が上がらないことを指摘。その上で、「そういう症例があった時に、この周産期医療協議会に報告してもらうシステムを作りたい」と、受け入れ病院側から協議会に報告する仕組みを提案した。
 
 これに対し、桑江千鶴子委員(都立府中病院産婦人科部長)は「現場の負担になる」と反対し、救急隊から搬送報告を上げることを提案。杉浦正俊委員(杏林大学医学部准教授)は、「この制度がどう動いているかの評価が必要。調査をするのはいいこと」と賛同した。さまざまな意見が出たものの、おおむね賛成意見だったため、岡井会長は協議会の下部組織になるスーパー総合の作業部会に詳細な方法を検討させるとした。
 
 このほか、岡井会長はスーパー総合に関して積み残した議論があるとして、▽NICU満床で母体を受け入れた場合の新生児への対応▽都民への普及啓発▽都外からの搬送依頼▽訴訟に至った場合などトラブル対応―を挙げ、これらも作業部会の検討課題とした。
 
■在宅医療に関する検討会立ち上げへ
 このほか、都内の周産期医療体制の整備として、▽NICUの整備目標の策定▽NICUから患者を円滑に退院させるため、在宅医療に関するニーズ調査などをする検討会の立ち上げ▽オープン、セミオープンシステムの取り組みの拡充▽周産期医療に関する情報収集の方法の検討、情報の検証や公表―にも取り組む。
 
 この項目は、猪瀬副知事が妊婦の受け入れ不能問題を受けて昨年秋から実施してきた、周産期医療体制整備PTの報告書の内容に基づくもの。報告書では、NICUに関する診療報酬の引き上げや国庫補助の充実、医師確保、女性医師の勤務環境の改善、重症心身障害児・者にかかわる施策や在宅医療の充実などを求めていた。
 
■周産期救急の搬送コーディネーターを設置 
 また、協議会はスーパー総合の議論と同時期に、周産期救急医療に関する搬送コーディネーターの設置についても検討を始めており、年末までの運用開始を目指している。このコーディネーターは、スーパー総合該当ケース以外の通常の母体搬送や新生児搬送が対象で、東京消防庁に配置された助産師などが、通常の周産期医療システムでは受け入れが困難だった場合に調整する役割を担う。コーディネーターのマニュアル作成や応需情報の吸い上げの仕組み作り、搬送困難事例の情報収集・検証の方法などについて、コーディネーターに関する作業部会が検討するとした。

 
 次回の会合は秋ごろを予定。スーパー総合とコーディネーターの各作業部会からの報告を聞いた上で、これら山積みの課題について優先順位を付けながら実施に取りかかるとしている。
 
 
この記事に関するコメントはこちら

  • MRICメールマガジンby医療ガバナンス学会
loading ...
月別インデックス