■「頑張っている医療機関にわたらない」-自治体
また、自治体が今年度予算の概算要求をする時点では、これらの施設要件はまだ厚労省側から伝えられていなかったため、3月半ばに急きょ言い渡された要件に戸惑いの声が聞こえてくる。
研究班の調査で都道府県別の分娩費用の平均額を見ると、最高は東京の約51万5千円で、神奈川(約47万7千円)、栃木(約46万3千円)と続く。50万円以上の施設があった都道府県は、東京(52か所)、神奈川(30か所)、埼玉(20か所)、兵庫(11か所)、愛知(10か所)など都市部に多かった。
東京都はこの事業に約6億9千万円を計上している。都の担当者は「都は人件費や土地代も高く、50万円という線引きは頑張っているすべての医療機関に渡る金額ではない。制度設計の仕方についても検討の余地があるのでは」と話す。
神奈川県は約2億円を計上。分娩を取り扱うすべての医療機関に補助金を出せるよう予算を組んでいたため、想定外の事態となったという。県の担当者は「高額というのは7、80万円ぐらいかと思っていた。現場でがんばっているのはどの医療機関も同じ。50万円というのは残念で、現場からもそういう声を聞いている」と言う。
■「やむない金額設定か、現状精査すべき」-厚労省
厚労省医政局の担当者は、50万円の妥当性について「全国の平均的な分娩費用の状況を見て出した」と説明する。「元は税金なのだから大切に使わないといけない。50万円を超えているのは1割で、そういうところがあるからといって単純に引き上げるわけにはいかない。現状を把握しながら必要な部分を精査していく必要がある」と言う。大学病院が救急に関する施設整備など間接的な経費がかかっていることについては「妊産婦の立場から言うと、救急医療体制など他の部分でかかっているお金が分娩費用に回ってくるというのはどうなのか。周産期医療で正常分娩にはそんなにお金がかかるというイメージはなく、妊産婦に負担がいかないような措置を講じられないか。どれだけ医療体制を整備しても、やむなく50万円以上に設定しないければならないという現状があるなら検証する必要がある」と話す。
ある学会幹部は、厚労省からの情報伝達の不備が問題だったと指摘する。「予算案が決まって、このような制限が加わることになったことについて、その具体的な内容が全く学会や産婦人科医側に伝えられなかった。知らされたのは『高額な分娩費用をとっている施設は除く』というおおまかな表現。医政局指導課長、雇用均等児童家庭局母子保健課長が1月にわざわざ説明に来て下さったが、『50万円』という意味であることは全く説明がなかった。その結果、私たちが具体的な支給のために必要な県レベルでの対応を各県にお願いする際、その制限のことを知らせることができなかった。このため、予算配分が当初予定と大幅に違ってしまった自治体もあると聞いている。このような事態に陥ったのは厚労省からの情報の伝達が不十分で遅かったからと言わざるを得ない。それこそが行政能力では」
これについて、厚労省内の関係者は「財務省と協議の過程で、当時の39万の出産一時金より高く徴収している病院は、国による補助でなく病院でやりくりすべきという議論だった。医政局は昨年秋には少なくとも知っていたということ。学会などが要望していた『時間外』分娩手当という趣旨を無視し、『すべての』分娩としたことが問題だったと思う」と話している。
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