次期改定で、脳卒中患者らの追い出しが加速?
「中小病院では患者の追い出しにつながることは間違いない」─。入院初期の診療報酬を引き上げる厚生労働省の方針に対し、民間病院の医事担当者は驚きを隠せない。来年4月から、脳卒中や心筋梗塞などで緊急入院した患者が早期に追い出されるケースが続出しそうだ。(新井裕充)
まだ正式決定ではないが、厚労省案が中医協の基本問題小委員会で承認されて来年4月の診療報酬改定に反映されると、脳卒中などで入院した患者が現在よりも早期の退院を迫られるケースが増えるとの声もある。
もちろん、急性期病院から回復期リハビリ病院へのスムーズな転院が進めば問題は少ないかもしれない。しかし、2008年度の診療報酬改定では、「在宅復帰率」などで診療報酬が変わる"成果主義"が回復期リハビリ病院に導入されており、回復期リハビリ病院で患者選別が進んでいるとの指摘がある。つまり、回復期リハビリ病院の"入り口"が従来よりも狭くなっている。
また、回復が難しい患者を受け入れる「障害者病棟」の対象患者から脳卒中などの患者が前回改定で外されたため、高齢者のリハビリ環境が悪化の一途をたどっているとの声もある。
急性期病院と回復期病院との円滑な連携が不十分な状況であるにもかかわらず、厚労省は平均在院日数をさらに短縮するため、DPC(入院費の定額払い方式)を導入している病院について、入院初期のインセンティブを高める方針。急性期病院の入院初期の点数を上げると、早期に退院できない患者の受け入れに消極的になるという悪循環が懸念される。
6月29日のDPC評価分科会で、伊藤澄信委員(独立行政法人国立病院機構医療部研究課長)は、「今の現場の状況から言うと、(入院期間がある程度経過した)『入院期間Ⅱ』の平均ぐらいのところが一番儲かっていて、それ以上(入院期間を)長くしても短くしても収益が悪くなるので、平均在院日数が欧米に比べて縮まない原因はそこにある」と指摘した上で、次のように厚労省案に賛同した。
「あまり『外国が』という話はしたくないが、わが国の平均在院日数が長いのは、(早期退院に)インセンティブが働いていないので、今のままで(早期に退院させなくても)いいという形になっていると思う。ちゃんと医療機関の(機能)分化を進めていくためには、ある程度の痛みを伴うのかなと思う。ある病院のデータで、出来高(実績点数)とDPC点数との差を見ると、平均在院日数が長くなる方が収益が大きくなるという現状。平均在院日数を短くする仕組みとして、現在のままでは十分ではない」
同分科会は厚労省案を了承。これが基本問題小委員会で承認されれば、2010年度の診療報酬改定で入院初期の点数が変更される。
今回の決定に対し、埼玉県内の民間病院の医事担当者は「ベッドが高回転している病院ならばいいだろう。しかし、稼働率がほどほどの病院や稼働率が悪い病院は入院期間を短くする必要がなかったので、平均在院日数を短縮する流れになるだろう。今回の方針は、患者がどんどん運ばれてくる高稼働率の大学病院向けの改定ではないか。中小病院では患者の追い出しにつながることは間違いない。信じられない改悪だ」と驚きを隠せない。
また、東京都内の急性期病院(400床)の医師はこう指摘する。
「出来高の場合は、医師の裁量で患者に合わせた治療や入院期間を設定することができた。しかし、DPC(入院費の定額払い方式)になってから経営判断を無視できないようになったので、外来でできることは外来に移すようになった。厚労省は平均在院日数の短縮化を『効率化』と言うが、果たしてそうだろうか。やらなくてもいい治療を控えるようにしたことが『効率化』であるなら、『効率化』は患者さんにとって望ましいことではない」
以下、どのような話し合いによって今回の方針を決定したかを紹介する。まず、厚労省の説明から。
[西岡清会長(横浜市立みなと赤十字病院長)]
「DPCにおいて今後検討すべき課題」について、事務局(保険局医療課)から資料の説明をお願いしたい。