救急搬送・受け入れルール策定し、地域医療にPDCA機能を-開出英之消防庁救急企画室長インタビュー
■まずデータで実態を見て議論し、改善へ
--今回の改正は、医療側が見たくないもの、また見ないようにしてきたものをさらけ出すことにもなると感じています。医療機関も受け入れ「不能」となるほど医療崩壊の状態ではありますが、一方で都市部など医療機関の多い地域では、明らかに救急患者を選別し、アルバイトの医師でも確実に受け入れられて黒字になる患者しか受け入れない医療機関もあります。そして、ホームレスや薬物中毒患者など難しいケースの患者をなんとか受け入れて疲弊している医療機関があり、救急隊もそういう医療機関の性格を暗黙で分かっている。ただ、医師の方が救急隊員より立場的に強いというところもあります。「ルール」をつくると、そうした暗黙の部分も出てこざるを得ません。医療側からの反発もあると思います。
地域によって問題や背景は複雑で、どろどろした問題もあると思います。そういったものをどこまで焙り出すかということはあると思いますが、明らかに今まで、欠けていたものがありますね。照会回数などについても救急隊員が個人で知っていながら、全体像として把握できていないというところがあります。消防庁は昨年度に全国の実情を把握するために受け入れ実態調査を行い、それで議論のベースができました。続いて東京都でさらに詳細な調査をしました(図)。これは精神疾患、アルコール中毒や認知症、過去に問題のあった傷病者など、傷病者の背景について調査したので、医療側の琴線に触れるものだったと思います。実際の数字が出てきて、医療機関から「やってよかった」という声も聞いています。都道府県レベルでも協議会で実態を調査・分析していくことでこうしたディスカッションができるようになっていくと思います。消防と医療が同じ場に立ってルールを作り、医療体制を見直していくということです。消防側も患者さんを適切に運びたいと思うし、医療側をサポートしていくというのが今回の目指すべき方向だと思っています。
--この都道府県が策定するルールのための国のガイドラインはどこまで詳しくつくるのでしょうか。検討会では「あまり詳しく作られると動きにくくなる」という意見も出ていました。
都道府県の方では、脳や心疾患など疑われる疾患別や、症状や主訴、診療科など、この辺りの区分けをどこまで盛り込んでいくかということになるかと思います(図)。ガイドラインでは「こういう区分けがありますよ」と示していく感じになり、地域の実情によってルールに取り入れる内容が色々と変わっていくと思います。また、今は救命救急センターへの搬送など県を越えて運んでいることもあります。そういう地域の状況を踏まえて適切に策定していただけるものを提示していきたいと思います。