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救急搬送・受け入れルール策定し、地域医療にPDCA機能を-開出英之消防庁救急企画室長インタビュー

開出英之救急企画室長.jpg 
インタビュー 開出英之氏(総務省消防庁救急企画室長)
 
 「救急搬送に今までなかったPDCAサイクルを機能させてほしい」-。都道府県に救急患者の搬送・受け入れルールの策定を義務付けた改正消防法が、今年4月に成立した。救急搬送の受け入れ照会数や現場滞在時間のデータを出せるようになるため、事後検証して医療提供体制の改善につなげられる。今後の救急医療現場や地域医療体制への影響について、この法改正の裏方を担った総務省消防庁の開出英之救急企画室長に聞いた。(熊田梨恵)
 

  
《背景》
改正消防法.jpg 国内で相次ぐ救急受け入れ不能の問題の解消に向けて今年4月、改正消防法が成立した。救急隊が患者の状態に応じて医療機関を選んだり、医療機関への情報を伝えたりする場合のルールとなる「傷病者の搬送・受け入れ実施基準」の策定を都道府県に義務付けている。搬送先となる医療機関をリスト化し、受け入れ先が決まらない場合の対応についても盛り込む。都道府県は、医療機関や消防機関、行政、有識者などから成る協議会を設置して実施基準を決め、救急受け入れに関する調査や分析、連絡調整を行わなければならない。この新しい協議会として想定されているのは、既に地域で救急救命士が行っている薬剤投与など一定の医行為の質向上のために指示体制の構築や事後検証、再教育の実施などの活動を行っているメディカルコントロール(MC)協議会だ。今秋の改正法施行に向け、消防庁と厚生労働省は合同の検討会を立ち上げ、都道府県が策定する搬送・受け入れルールのガイドライン策定の議論を開始した。
 
消防法で定められる基準.jpg また、この改正法は総務省消防庁と厚生労働省が共同で関わったという特徴がある。救急医療現場では密接に連携している救急隊員と医療スタッフだが、消防機関は「総務省消防庁」、医療機関は「厚生労働省」と、主管する省庁が異なるための縦割りの弊害がこれまで言われてきた。今回、救急受け入れ不能の問題を解消するために国も本腰を入れ、省庁の壁を超えた法改正を実現した。総務省消防庁と厚生労働省が省庁間を越えて法改正を行ったのは史上初だ。
 
 
■省庁間の縦割り解消につなげた法改正
 
--あらためて、今回消防法が改正されるに至った背景を教えて下さい。
 
 国内で受け入れ困難事案が多く報道されるようになり、消防庁で実態把握のための全国調査をしました。当初は医療機関の少ない地方で多いのかと思っていましたが、実は都市部の方が受け入れ困難ケースが多いという実態が見えてきました。さらに都市部の中でも色々と状況が違う。地域によって医療機関と消防機関の連携の具合が違い、そういう事態が生じているということに思いが至りました。医療機関にどう患者をつなげるかというマッチングの部分の問題ですね。そこから、地域による搬送・受け入れルールを策定していくという今回の法改正につながりました。
 
--今回の法改正は、総務省消防庁と厚生労働省という、いわゆる省庁間の「縦割り」に切り込んだ歴史的な法改正ですね。
 
 今回の法改正に至る議論の中で、救急医療の先生方から「行政主体のズレ」という事が指摘されていました。消防機関は各市町村にあり約800。医療は都道府県が医療計画を作り、医療圏という単位が設定されています。市町村と県は連携はしているけれども、やはり「遠い」と。そして都道府県の中でも衛生部局と防災部局で違う。そこの接点を円滑にするという課題が出てきました。
 医療機関側は患者のカルテなどの細かい情報は持っていますが、公衆衛生的な地域の統計などはありませんよね。一方の消防機関側は「救急活動記録票」で、すべての搬送について細かく記録しています。この両者が連携することで、医療体制側の優れているところも、弱点も見えていくと思います。搬送・受け入れルールを策定して、受け入れ実態の調査や分析を行うことで、今までなんとなく暗黙だったところが実態として把握できるようになります。そうすれば課題も見えて取り組みやすくなると思いますし、医療体制の充実につながっていくと思います。ただ、全都道府県が作ることになれば、「ある県ではt-PA【編注】が必要な患者にこんな搬送ルートを組んでいるのに、うちで組んでいないのはなぜか」といったようなことは出てくると思うので、そこはしっかり議論して頂きたいと思います。患者側からも、地域によって差があるとおかしいと思われるでしょう。各都道府県で歴然とした差が出てくるので大変だと思います。医療側から見ると、きついと感じられる部分もあると思いますが、今すぐにすべてを変えるというわけではありません。少しずつ実態を見ながら変えていくのだと思います。
  
【編注】t-PA...血栓溶解薬のアルテプラーゼ。血栓を溶かす作用があり、脳梗塞を起こした患者への投与が有効。ただ、3時間以内の投与が有効とされるため、迅速に患者を発見、搬送することが求められる。国は脳卒中医療に力を入れており、t-PAを使った治療に診療報酬点数を付け、都道府県が策定する医療計画の中でも脳卒中の地域医療に関して詳しく策定するよう求めている。
  
--都道府県に設置された協議会が実施する、受け入れに関する「調査・分析」というのはどこまでを想定されているのでしょう。
   
 基本的には照会回数と現場滞在時間といった、消防庁が実施した実態調査の内容を考えています。搬送先と受け入れ側のマッチングに関する個別検証はすぐには難しいと思いますが、長崎県などでもすでに行われていますし、実施していく必要はあります。脳疾患や心疾患など生命に直ちに危険が及ぶ疾患から始めていくということになると思います。

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