医師の労働環境を改善し、医療崩壊を打開したい-植山直人全国医師ユニオン代表インタビュー
――今、ようやく"医療崩壊"という言葉がマスメディアでも言われるようになり、医療現場の疲弊した状況が伝えられるようになりました。一方で、どうしても「医者は金持ち」という一般に流布しているイメージも根強いです。医師の労働組合というと、一般の理解を得にくい部分があるかもしれません。
この活動の根幹に、医療崩壊を防ぎたいという思いがあります。医療崩壊の根本問題は医師の過重労働や訴訟リスクによる委縮医療など、医師を中心とした問題です。ここを解決しなければ、医療崩壊は止まりません。ユニオンでは医師の利益を追求するより、住民や国民のみなさんと一緒に医療を正常化したいのです。国は医療崩壊を感じておらず、財界は医療費を無駄と考える立場に立っています。医療や福祉を無駄と捉え、箱物や土建の公共事業にお金を注いできましたが、その方向性がまだ変わっていません。日本は根本的な政策転換をしていないので、医療崩壊はまだ数年は続くでしょう。これを現場から変えていくためには、国民と医療従事者が力を合わせて訴えていくしかないと思います。
――ユニオンの活動が患者側、国民側の利益にもつながっていくということでしょうか。
医師の労働環境が改善されれば、医療の質と安全性が向上しますから、必ず患者にメリットがあります。医療崩壊を止めるためには医師が元気に、やり甲斐を持って働ける環境をつくらねばならないというのが私たちの主張です。ただ、それにはマンパワーが少な過ぎるのが現状です。国が予算を付けてくれればいいのですが、医療費抑制政策が続いてきました。ユニオンの結成宣言でも抗議していますが、今の医療費約30兆円の最低でも1割、3兆3000億円程度は投資する必要があると考えています。
――医療界からの声というのはこれまでなかなか発信されてきませんでした。どのように「地域住民とともに訴えていく」ということが考えられますか。
うまくいっている地域は医療従事者、医師も含め、患者会などが積極的に運動し、盛り返しが起きています。医師の絶対数が足りないので根本的な解決にはなりませんが、今できる活動はあります。「アクセス制限」という言葉は患者側からすればすぐには理解を得られないと思いますが、医療側から「夜間体制はこうなっている。この状態なら来てもらってもいいが、この状態ならできるだけ開業医に行っていただきたい」など丁寧に説明し、理解を得ていくことはできると思います。今すぐともに何か活動するということは考えられませんが、地域住民の方たちとお互いの状況を知り合って、話し合っていきたいと思います。
――ユニオンの活動を進める中で、具体的にどういうことを国民に訴えていきたいと思っていますか。
ユニオンは当面のスローガンとして、▽過労死を招く過剰勤務をなくす▽当直を時間外勤務と認めさせる▽主治医制を担当医制へ変えさせる-の3本を掲げています。この中の、「主治医制」「担当医制」という考え方について知って頂きたいと思っています。日本では主治医は365日24時間、主治医としての責任を果たさなければならないという意識がありますし、患者もそういうものだと思っています。ですが、主治医も人間ですからそうはいきません。EUでは、医師はオンコール(待機時間)を含めて週48時間労働とすることを昨年の議会で採択していて、二交代や三交代制で、時間で担当が代わるような勤務形態の「担当医制」になっています。医師の労働環境が守られる担当医制の方が、医療の質も安全も向上します。そのことをぜひ国民に知ってもらいたい。担当医制は日本ではすぐにはそうできなくても、意識を変えていく必要があります。