労基法「パンドラの箱」は2004年から開き始めた?
民主党の足立信也参院議員は4月21日の参院厚生労働委員会で、2004年に労基署から医療機関への監督指導が集中したことや、国立大学が独立行政法人化したことを指摘し、「この平成16年(04年)には、(パンドラの箱が)実は開き始めた。それならば、実際に必要なコストと医師数、看護師数は正確に推計できるはず」と主張した。(熊田梨恵)
現状の国内の医療提供体制は、勤務医の過重労働を改善するために直ちに労働基準法を順守すると、医療提供側のバランスを崩して医療崩壊を加速させることにもつながりかねないという難しい問題を抱えながら、かろうじて保たれている。東京都港区の恩賜財団母子愛育会・愛育病院が労基署から是正勧告を受けていたことが報道されて以降、これまでなかなか表面化してこなかったこの問題が議論されるようになってきたとして、「パンドラの箱が開こうとしているのか」との声が聞かれるようになった。4月14日にも同委員会で梅村聡議員(民主)が、「本当の正しい意味での働き方、それによる医療提供の仕方。これはパンドラの箱を開けることになるかもしれないが、今まさにここに切り込まないと」と述べていた。
■「新臨床研修制度よりも影響あった」
足立議員は委員会で、2002年に厚生労働省労働基準局が出した通知を元に、宿日直許可を受けている医療機関6600か所に対して労基署からの調査が入り、04年には2700か所に改善指導がされ、悪質だった596か所に監督指導がされていたことを説明。このうち、労基法上の宿日直許可基準に違反していた医療機関については、06年3月時点で200か所が改善されており、そのうち過半数の115か所が医師を増員して許可基準を満たせるよう対応していたと示した。これらが急性期を中心とした大病院だったことを指摘した上で、「これは地方の病院の人員が減る一因になっている大きな要素」と述べた。
加えて、04年には国立大学が独立行政法人化して大学病院も労基署の指導対象になったことも、医師を大病院に集約する契機になったと主張。同じ04年に始まった新医師臨床研修制度よりも、これらの労働基準法順守に向けた医療機関の動きの方が、地域の医師不足に与えた影響は大きかったとの見方を示した。
その上で、労基法を順守するために必要なコストや医師・看護師数の把握につなげることはできるとして、「ここをやらないと今後の解決策はなかなか立てられない」と述べた。
舛添要一厚労相はこれに対し、勤務医が労基法に違反する状態で過重労働となっていることについて、「大変な問題なので、少しこういうことを本格的に検討したい」と述べた。
■医療機関の収入「明らかになっていない」
また、コスト把握に対する指摘について厚労相は、公立病院などでは収入についても明らかになっていないと指摘。「会社を経営する、組織を動かす時には収入や支出がいくらあって、その差をどうするか考えないといけないが、こと医療機関はその感覚が非常に薄いと思う。まさに情報公開はそういうことのためだと思う」と苦言を呈し、時間をかけて検討したいとした。