「提言すべきだったのは社会保障費増額」―全医連が財政審建議に見解
全国医師連盟(黒川衛代表)は6月7日、財政制度等審議会(財政審)がまとめた医師の計画配置などを提言する2010年度予算編成に向けた建議について、医療費抑制を前提としたものと指摘した上で、「財政審が提言すべきだったのは、医療・介護・福祉などの社会保障費の増額」と主張する見解を発表した。(熊田梨恵)
財政審は6月3日、与謝野馨財務・金融・経済財政相に対し、2010年度予算編成に向けた意見書となる建議を提出した。小泉政権が06年の「骨太の方針」に掲げた歳出改革路線を継続し、社会保障費の抑制を促す内容になっている。持続可能な社会保障制度の確立のために医師の確保対策などは必要としているが、「ムダ・ゼロの徹底、効率化・合理化などの不断の改革努力は必要」との主張だ。医療分野については、▽診療報酬の配分の在り方▽医師の適正配置▽医療従事者間の役割分担の見直し―の3点を早急に取り組むべき課題として挙げた。
全医連は、今回の建議について「現場の声を全く無視したもの」と主張。医療にかけるコストを削減することが前提の内容になっているため、医療・福祉・介護では密接に関連する「コスト、クオリティー、アクセス」のクオリティーとアクセスの低下は避けられないとした。「医療費全体の抑制を念頭に置いている限り、医療崩壊は改善に向かうことは決してない」として、財政審は医療費の増額こそ提言すべきだったとしている。
また建議は、地域や診療科、設置主体のそれぞれの間にある偏在の解消に医師の計画配置を提言しており、「規制的手法を活用することも必要」としている。ドイツでは開業時に診療科や地域ごとの定員枠を設けており、ほかの国ではも診療科を選択する際に制度や事実上の規制があるとして「医師の養成には多額の税金が投入されていることなどから、医師が地域や診療科を選ぶことなどについて、完全に自由であることは必然ではない」としている。
全医連はこれについて、日本は「現在でも先進国最低の医療費、最低水準の医師数」と指摘した上で、医療訴訟や過重労働などさまざまなストレスにさらされている医師に対し、「診療科や診療地域の強制配置などの規制的手法を行えば、医師のモチベーションは一気に低下し、奇跡的に維持されている現在の医療は破たんする」と主張している。
(この記事へのコメントはこちら)