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妊婦の救急搬送、東京消防庁で助産師が行うコーディネートとは?

助産師搬送コーディネーター2.jpg 東京都が8月31日に開始した、搬送先の決まらない妊婦や新生児の受け入れ先を探す助産師による「搬送コーディネーター」は、119番通報を受ける消防機関「東京消防庁」に設置されているという点で、大阪府や札幌市など他の自治体で行われているコーディネーター制度と違う独自性がある。12日までに47件のコーディネート実績があったが、このうち20件は医療機関からの搬送依頼ではなく、「119番通報」からコーディネーターにつながったケースだった。東京都の搬送コーディネートシステムはどんな特徴があるのだろうか。(熊田梨恵)

■妊婦の搬送ルートは2種類
 昨年国内で相次いだ妊婦の救急け入れ困難の問題を受け、妊婦の受け入れ先を迅速に探すための搬送コーディネーターの設置を始める自治体が出てきている。
  
 ただ、一口に「妊婦の搬送」と言っても、二種類の搬送ルートがあるため一般からは分かりにくく、他の診療科からも「周産期医療は分からない」と言われやすい所以でもある。ここが混乱したままの報道もあり、行政が整備を進める上でも困難を伴うことがあるため、簡単に整理する。
 
①転院搬送(産科医らによる地域の周産期医療ネットワークを活用)...例えば妊婦がかかりつけの産科クリニックを受診した時に切迫早産になりかけていたとして、かかりつけ医は対応が可能な2次、3次救急クラスの周産期母子医療センターを探す。かかりつけ医が受け入れ先を見つけられれば、救急車を呼んで救急隊に搬送先を伝え、妊婦が運ばれる(急を要さない場合は自家用車などで入院の事も)。「医療機関から医療機関への搬送依頼」というベースになり、厚労省が1996年に出した周産期医療体制整備に関する通知を基にした、地域の産科医らによる周産期医療のネットワークが活用される。
*2008年10月に東京都で起こった、脳出血を起こした妊婦(36歳)が都立墨東病院を含む8つの病院に受け入れを断られ、最終的に受け入れられた墨東病院で死亡した問題はこの搬送ルート
 
②一般の119番通報からの搬送(救急隊の勘と経験による搬送先の"人力選定")...代表的なものがかかりつけ医を持たない、いわゆる"未受診妊婦"の急変時の通報など。一般の傷病者からの通報が入る消防機関指令室に119番通報が入り、それがたまたま妊婦だったというケース。基本的に消防機関は市町村を中心とした体制で、119番通報を受けた指令員は現場から近い消防機関に出動を要請する。現場に到着した救急隊が、患者の状態を見て搬送に適していると思われる受け入れ先を探すという形なので、いわば現場の救急隊の経験と勘に頼る"人力選定"。もし患者が妊婦で、命にかかわる疾患が疑われた場合、救急隊員が市町村を超えた遠くの地域、時には県外などにある産科救急に対応できる病院に受け入れを要請することもある。
*2007年8月に奈良県で起こった、妊婦(38歳)が死産した受け入れ不能問題の搬送はこのケース
 
 この現場で行われている搬送先選定作業に時間がかかってしまい、受け入れ先が見つからない間に容体が急変することがあるとして考え出されたのが「搬送コーディネーター」だ。
 しかし、妊婦の搬送にはこのように全く違うベースの2種類があるため、どのように工夫してコーディネート業務を行うかは地域の実情によってかなり異なる。

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