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妊婦の救急搬送、東京消防庁で助産師が行うコーディネートとは?


■非常勤助産師16人で交替勤務
 都の搬送コーディネーターは、多くが周産期母子医療センターで働いた経験のある助産師で、16人が非常勤として24時間2交替制で勤務している。搬送先に困った総合周産期母子医療センターからの電話を受け、机上のコンピューターの周産期医療情報システムや電話での問い合わせにより受け入れ先を探す。システムの更新ができていない病院に連絡したり、受け入れができない「×」が表示されている病院であっても、どの程度であれば受け入れが可能であるかを尋ねたりもする。コーディネーターの助産師は「×が多い日は選定先に苦労します」と話す。
  
助産師搬送コーディネーター.jpg 12日までの実績は47件で、診療所から病院に移るなどの転院搬送が27件、119番通報で妊産婦に関わる搬送だったためにコーディネーターにつながったものが20件だった。119番通報からのケースとして、かかりつけ医を持たない未受診妊婦の搬送のほか、「『胎動がない』、『赤ちゃんが出てきたかもしれない』というのもあった」(担当者)という。
 平均して1日に1件ペースで、約25分間で受け入れ先が見つかっている。コーディネーターが受け入れ先を調整して搬送先が決まらなかったケースはなかったという。担当者は「この数が多いか少ないかは判断できない。一日一件でも、助産師という専門知識を持っている方がやっているのは頼もしいと思う。母体搬送ももっとあるはずだが、医療機関が頑張ってくれているのでは」と話す。 
 
 一方で、まだこのコーディネーターのシステムが浸透していない医療機関もあり、非常勤医や当直のアルバイトの医師では制度を知らず対応できない場合もあるとして、情報を浸透させていくことも課題だという。
 
 都の担当者は「総合センターからもコーディネーターが設置されて『助かった』と言われている。今後も体制を整備、強化して都民の安心につながるようバックアップしていきたい」と話す。この実績については、都の周産期医療協議会で今後検証される予定だ。
 
■「周産期医療体制は地域で違いすぎる」
 国も妊婦の受け入れ不能問題がクローズアップされたことを受け、搬送コーディネーターの設置を積極的に支援しているが、実際はなかなか難しそうだ。
 
 厚生労働省では、周産期医療体制の整備を全国的に進めようと、今年度予算で周産期医療対策として約2億2千万円を計上。この中には母体搬送コーディネーターを設置する都道府県に対する、1件当たり約3000万円の支援も含まれている。現在は10件の応募があり、交付先はまだ決まっていない。コーディネーターの設置場所としては総合周産期母子医療センターが多いというが、どこに設置するかは規定されていないため、地域の実情に応じた形での設置が可能だという。厚労省医政局の担当者は10件という申請数について「多いか少ないかは何とも言いようがない」と話す。
 
 ある自治体の消防機関の職員は、「基本的に救急隊は市町村単位で動いているので、妊婦の搬送でも圏内の数か所の病院が輪番で必ず受け入れてくれている。都道府県をカバーするコーディネーターというのは範囲が広すぎてちょっと考えにくい」と話す。また、搬送の受け入れ先選定については、「医師同士の"俗人的"なつながりで行われている部分もあるので、これを"システム"化し、地域のコンセンサスにするというのは難しいのでは」と言う。
 
 日本産婦人科医会の中井章人常務理事(日本医科大附属多摩永山病院副院長)が「周産期医療は地域によってかなり実情が違うため、一律の施策で対応していくのは難しい」と指摘するように、母体搬送コーディネーターを設置していくにも、地域の状況は各自治体によってかなり異なる。
 
 調整役を担うのは、医師、看護師、助産師など、誰でどういう立場になるのか。設置場所は医師会、病院、消防機関などどこに置くのがよいのか。連携体制のベースは市町村、医療圏、都道府県なのか、広域搬送をどう考えるか。山間部や都市部、3次救急医療機関の設置場所、MFICU(母体・胎児集中治療管理室)、NICUの設置場所といった地域や施設の特性のほか、周産期医療の基幹病院を大学病院、公立病院、特定機能病院のどこが担うかも影響する。分娩費用も地域によって約2倍の差があるなど、周産期医療の提供体制は地域によってかなり実情が違う。それだけを見ても、搬送コーディネートの業務は地域でかなりの差が出てくるはずだ。
   
 加えて、今年春に消防法が改正されたため、都道府県には救急搬送と受け入れに関するルールの策定が義務付けられた。10月末に国からガイドラインが通知されるのを受けて都道府県はルールを作り始めねばならないが、周産期救急もルール上の必須項目であるに違いない。
   
 "医療崩壊"が最も顕著とされる産科医療で、少ない医療資源を有効活用するために考えられた搬送コーディネート業務。手探りでの体制整備がまだまだ続いている。
 
 
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