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ニュース〜医療の今がわかる

村重直子の眼2 松村有子・東大医科研特任助教


村重
「瞬時の判断でベストと思ってやったわけですからね。反省はもちろんあるにしても。医療者だって精一杯やっているわけですから」

松村
「訴訟にいけば、そうやって非を責め合う、裁判に勝つためにあらゆる非を探して糾弾するような状況になってしまうんです。それは不幸の連鎖だと思うんですね。そう思いますので、そういう対立関係にならないと救済されないという所を何とか打開したいと。両者の信頼関係を切らないことが一番。そしてつらい中で手を差し伸べる所が今はないわけですから、死亡された方のご家族は非常につらい思いとご苦労をされているし、それで募金活動を始めたわけですね。ご遺族にまとまったお金、今は1件100万円ですけど、を会に集まった意思としてお渡しすることで、それをきっかけに信頼関係を続けられるようにと活動を始めました。今までに520万円ほど集まって、2家族にお見舞金をお渡ししています」

村重
「純粋にボランティアの皆さんの、気持ちが詰まったお金ですね。お見舞金をお送りする対象者はどうやって探すんですか」

松村
「ご遺族や周囲の方から、あるいは関与した産婦人科医から会に連絡していただくようにしています。書類に両方のサインをいただいています。これによって、少なくとも我々が関与する段階では、医師とご遺族との関係が断ち切られていないことになります。医師会にも見舞金を出すような制度があると思いますが、その上限額は我々の活動と大差ないように聞いています。医療側に過失がなければ申請して、郡市医師会の保険から払われる形です 」

村重
「日本の今までの法制度の考えは、無過失と言いながら、過失の有無を判定してから払うという形なんですよね」

松村
「過失の有無を判定して、過失ありと判定されなかったものという言い方になると思います。積極的に無過失の認定は難しいので」

村重
「そうですね、日本の現状は、過失ありと判定したものについては、医賠責保険になったり、後で医療側に請求が行ったりする、裁判の代わりのような発想ですね。過失のある人を決めて、その人に払わせるという発想に縛られています。一方、私たちが考えている、あるいはアメリカのワクチンの無過失補償・免責制度のように、過失の有無を評価せず、患者さんにどういう被害が起きて、どういう後遺症があるから、その生活を支えるために、みんなで払うというのと、実は発想が全然違うんですよね」

松村
「そう。だから遺族の方にとっては、気持ちの面でも凄くずれて納得いかないというか、こんなに苦しんでいるのに、払う根拠が被害の程度じゃなくて過失の程度ですから。医療として過誤があったかどうかで、見舞金になるか、医賠責保険になるかが分かれます。医賠責になれば、金額は大きくなるし、障害の程度も反映される。でも過失がなかった場合の見舞金は、障害の程度も若干は加味するけれど、結局は上限が決まってるし介護費が出るわけでもないです。患者さんからすると、なんで? と思われると思います」

村重
「一時的な被害もありますが、長いこと、医療や介護費用の負担をずっと負っていくケースもあるんですよね」

松村
「向いている方向が違うんですよ」

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