村重直子の眼6・井上清成弁護士
元厚生労働省大臣政策室政策官の村重直子氏が在野のキラリと光る人たちと対談していくシリーズ、本日から第2クールに入ります。対談していただくのは、医療事故調の問題や出産育児一時金の問題などで、皆さんにもすっかりおなじみとなった井上清成弁護士。ただし今回のテーマは無過失補償制度です。(担当・構成 川口恭)
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村重
「私は、日本の医療には無過失補償・免責制度が必要だと思っています。井上先生は、無過失補償制度として裏の国民皆保険というものを提唱なさっていますが、どういうコンセプトで、どういうものが必要と考えてらっしゃるのか教えてください」
井上
「通常言われる国民皆保険制度は、医療を受ける時に、誰でもいつでもどこでも、それで安く適切な質の医療を提供してもらえるというものですよね。その国民皆保険を守らないといけないと皆言っていて、原則論としては合意があるわけですね。だけど、医療には、いわゆる事故が起こりうるし、その頻度は他の分野に比べても高いです。過誤とかじゃなくてもですね」
村重
「普通にやっていても、副作用はありますからね」
井上
「いわゆる有害事象ですね。それらが副作用なのか、法律に言う『重大な過失』なのか、『過失』と言っていいのかも分からないものなのかは別にして、いずれにせよ、いっぱいあります。医療に関して多くの問題が起こりうるんだったら、その分をどうするのか、と。個別に裁判をやって、被害の救済とか制裁とかというのはあまり芳しくない。なぜかと言うと、元が皆保険の枠の中でやっているものなのに、問題が起こるとそのまますぐ裁判というのはバランスが悪いですね。そこで裏の皆保険という話になるのですが、医療を受ける時に保険でやるんだったら、そこから生じたイレギュラーな副作用や過失・過誤による事故のようなものの補償も保険でやったらどうかという話です」
村重
「そうですね、かなりの確率で望ましくない結果が起こるわけですからね」
井上
「患者さんにとって思わしい結果が出ないということはままありますし、医療に伴う有害事象もままある、だったらそういうものは保険に込みにしたらよいではないかということです。ハッピーな結末に終わるものへの保険給付と同時に、そうならなかった場合への保険給付があってもいいんじゃないでしょうか。それが皆に公平に分配できてこそ、真の皆保険になると思います」