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ニュース〜医療の今がわかる

村重直子の眼2 松村有子・東大医科研特任助教


村重
「もともとは、この募金活動のために作った会ではないんですよね」

松村
「この会は、そもそもは、福島県立大野病院事件で産科医が逮捕・起訴された時に、被告となった加藤医師を支援するために作られました。代表が、加藤医師の医局の上司だった福島県立医大産婦人科の佐藤章教授でした。裁判自体は08年8月に地裁で無罪判決が出て終わったんですが、佐藤先生は裁判で勝ったから終わりという風にしたくないんだと仰って、ご遺族の方に対しての募金活動も呼びかけられたんですね。どうも、何とか対立関係を修復できないものかと、かなり前から考えていたようです」

村重
「産科医自身が、対立関係を望んではいませんよね。なんとか、寄り添える道を考えておられるのですね」

松村
「私自身は産科医ではないですが、産科医自身がやはり一番、お母さんと赤ちゃんを守りたいと強く思っていらっしゃるんだなと思います」

村重
「本当はこういうことは、妊産婦も赤ちゃんも、他の病気の方も、ワクチンの副作用も、広くカバーされるような制度が、国の制度としてあるべきなのに、国が動かないから現場の先生がまず動いたということで、素晴らしい実績をお作りだと思います。こうしたノウハウを蓄積して、国民の賛同を得られれば、国全体の制度になっていく、そういうことのきっかけになるといいですね。それは多分、国が今つくっている産科無過失補償制度をそのまま拡大すればいいという話ではありませんね。あれは過失の有無を追及する、裁判の代わりのような制度ですから。そうじゃなくて患者さんの被害を救うため、被害に応じて払う、患者さんの生活を社会的にみんなで支えましょうという概念で、本当に素晴らしいと思います」

松村
「そうですね」

村重
「ところで、本当は世界的に見ると、無過失補償は免責とセットになっているのが多いようですけど、今の産科無過失補償も先生方の活動も、お金を渡すけれど裁判もしていいよ、両方行けるよという話になると、そのお金を弁護士費用にして裁判を起こす可能性があるじゃないかという批判もあるかと思うんですが」

松村
「そりゃ可能性はあります。でも募金のお金を裁判に使わないでとは規定してないです。ただ、お金の趣旨と会の経緯は必ず会ってお話をしているので、大野病院事件から始まりそれで終わりたくないということで主に産科医の先生や、あるいは同じような経験をした方が出してくださったお金ですということ、会としては裁判ではない信頼関係をつくっていきたいということを思ってやっているということを必ずお話するようにしてます。それ以上は特に何に使うなとは制限してないです。ご遺族の方は、裁判を起こすとしても、このお金は充てませんとは仰ってます。保育園の費用にしますとか、何に使ったと訊かれたら生活費に消えたという感じなんですけどねえ、とそういう感じですね。」

村重
「国の無過失補償の場合は、今は免責はないですが、実際は裁判に行っても、受け取った補償金の額は、賠償から減額されるようですね。今のところは、裁判でもらえる金額と無過失でもらえる金額の差が大きいので、元手にして裁判に行くじゃないかという話になるんですけど、もっと補償金の額を増やせば、免責を設けて、裁判をしたい人はすればいいけれど、どっちか一つだよという外国の制度みたいにすることは不可能じゃない。それを社会全体のルール、両方取りはなしよ、その代わり社会全体で支えましょうという概念が共有できれば、できるのかなと。その概念に一番近い活動が先生方の取り組みだと思います」

(この記事へのコメントこちら)

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