「粒子線施設もう要らない」 西尾・北海道がんセンター長
がんの「夢の治療」としてメディアなどで取り上げられることの多い粒子線治療について、専門家の口から「これ以上もう要らない」という言葉が飛び出した。30日、都内で開かれた市民講演会『医療改革の新地平』(主催・市民のためのがん治療の会)に登壇した西尾正道・北海道がんセンター長が会場からの質問に答えて述べた。皆さんに共有していただいて損はないと思うので、その発言の当該部分を採録する。(川口恭)
西尾
「今までの放射線治療というのは、がんの病巣だけにうまいことかからなかったんですよ。で、がんの所だけかける方法として重粒子線治療という特殊な放射線があって、それは出すところのフィルターとかの調節によってですね、がんの深さの所でだけエネルギーを放出する。だから周りがかからなくて済みますよということで、それでいいんじゃないかということで30年ほど前からずっと研究されてきた。30年前から研究されて10年ぐらい前からようやく実用化する、人間の体に使えるようになった。ところが30年の間に普通の放射線の機械、リニアックっていう放射線を出すヤツを、コンピュータでかけ方を制御することによって周りはあまりかからなくて、がんの所だけ絞り込んでかけられるという技術が出てきたわけ。そうすると粒子線でがんの所だけ絞り込むこともできるし、普通のX線を使ってコンピュータ技術を使って集中することもできるし、ということで、ほとんど対等になっちゃったんですね。
コンピュータ技術がなかった時に考えられた粒子線治療と、今コンピュータの進歩で同じような放射線のかけ方をできるようになった。だからそういうことで言うと、たとえば前立腺がんで言えば重粒子線で絞り込んでかけようが、放射線をコンピュータの技術で絞り込んでかけようが、成績はほとんど変わらないということになります。
ただ特殊ながん、骨肉腫だとか悪性黒色腫だとか、非常に効きにくいがんがあります。そういうものに関しては同じ粒子線でも炭素イオン線というのがあって、細胞をやっつける力が普通のX線の3倍くらい強い。ですから普通の放射線の効きにくいがんについては炭素イオン線なんかを使えばやっつけられる。ただし、そういう患者さんというのはそんなにたくさんいないじゃないですか。今、日本で炭素線の装置は4カ所、動き出そうとして、3カ所はもう動いていて、4カ所目が動き出そうとしている。そうしたら、それで全部さばけちゃうわけです。そこに送れば。患者数から言っても。
陽子線治療も、このままいくと16カ所になります。そんなにそれが必要な患者さんはいません。ですからそういうのは十分に適応のある患者さんをそこに送ってやれば日本全国で出てくる患者さんをさばけるわけです。僕は、もう要らないって言っているんですけど、企業がつるんでですね儲けのために入り込んできている。そうすると結局むしり取られるのは患者さんなんですよ。
それどころか、そういう陽子線治療と同じような治療結果を出せるような最新の技術、IMRTとかIHRTとかを使えばリニアックでできるんですけど、それを標準的なことを各地域で整備することの方が大事ですよね。ところが、そういうことが全然されてなくて、絵に描いた餅のようながん対策が取られていて、それぞれの地域で不完全な治療がやられている。(後略)」