「介護者同士が共感できる場を」―認知症患者の介護家族の声③
■アリセプトでせん妄状態、薬をやめ主治医を変えた
――本当に仲良くされていたんですね。母と娘の関係は干渉しすぎる場合もあったりしますけど、とても素敵だなと思います。
だから、母が私を忘れて行くことがとてもつらかったです。ある時パートから帰ったら母が「陽子ちゃん遅いね」と言ったんです。それで「私はここにいるでしょ」と答えたら、「そうやね、あんたが陽子ちゃんやったね。なんで私分からなくなったんだろうね」と落ち込んでいました。私は来るべき時が来たんだなと思いました。それから次々に色々な症状が出てどう理解していいか分からなくなり、そのたびにパニックに陥りました。ある時母が風邪をひいてかかりつけの病院の先生が往診に来てくれた時に、特に何の説明もなくアリセプトが風邪薬と一緒に処方されました。それまで先生の薬は何の疑問もなく飲ませていたのですが、3日後の夜に母が興奮して話し始め、何かが見えているみたいに空をつかみ出しました。それで次の日にはそのかかりつけの病院に入院しました。往診にて来てくださっていた院長先生の息子さんもその病院で医師をされていたので、その若先生にアリセプトについて相談して、やめてみたんです。そしたら翌日にいつもの状態に戻りました。それで今までの薬に不審が出てきたので調べて、「これは副作用はないですか?」とはっきり聞くようにしました。幻覚が出る副作用のある薬もやめてみたら、出ていた幻覚も収まりました。院長先生と若先生の薬の見解が違うと思って、気兼ねはありましたけど、若先生に相談したら「構わないですよ」と言われたので、主治医を院長先生から若先生に変えて頂きました。
――思い切って薬について尋ねたり、主治医を変えたりされたんですね。
それはやっぱり母を守るためです。そりゃお医者さんに任せる方が楽です。でもやっぱり母を守るのは私しかいないので、それが子どもの責任だと思いました。その後も母の認知症は徐々に進行して、「あなたの家はどこ?」と繰り返し聴かれて、嫌になって「はいはい、分かりました」と当たってしまったりします。「陽子ちゃんの帰りが遅いね」と何度も言われるので、隣の部屋に行ってから自分の携帯電話で家の固定電話にかけて、急いで戻って子機を母に渡し、また隣の部屋に行って母に「今から帰るね」と話すというお芝居したこともあります。でも、そうしてもちょっとしたらまた元に戻ってしまいます。他人が来たらしゃんとするので、泣きついて近所の方に来て頂いたこともあります。昼間は外に出て、帰ったら夜は落ち着くかなと思うので、今もそうですが母を連れてスーパーやホームセンター、海を見にドライブに出かけます。でも帰ると「私帰ります」と言い始めるので、とても困りました。私が家で見るのではなくて、施設に入ってもらってたまに会いに行く方がいいんだろうかとも真剣に考えました。
――相談できる方がおられなくて、本当につらい時期だったんですよね......。
でも、母自身はどういう気持ちなんだろうと思っていました。認知症は、一番不安なのは本人だと思うんです。ある時、母が洗口剤を入れたうがい薬を誤って飲んでしまったんです。いつもだったら私もそんなに言わないのですが、その時はいら立っていて「だめでしょ!」と強く言ってしまいました。そしたら母はそのうがい薬を余計に飲んだりして、「もういいです!もう出て行きます!」と。私も腹が立って「お母さんのことをこんなに心配しているのに」と言いました。それから私はしばらく隣の部屋にいて、いつものように少し時間が経ったら母は今のことを忘れて元のようになるかなと思っていました。でも、覗いて見たら、母が頭を抱えて「私が悪いんですから、出て行きます」と泣いていたんです。母がいつも頼っている私に冷たくされたことが不安の原因の一つだったと思います。その気持ちが十分過ぎるほどに伝わってきて申し訳ない気持ちになりました。
――お母さんご自身も不安を抱えておられて、有岡さんも不安や戸惑い、いらだちもあって......。八方ふさがりの、本当につらい時期ですよね......。
母の認知症が始まって最初の頃は、私が一人で外出することもできたのですが、5年ぐらいしてからは、一緒でないと外に出られなくなりました。相変わらず夜は2時間ごとに起きていて、体調を崩して母と一緒に入院したこともありました。その頃にデイサービスも使い始めて、少し自分の時間ができたことはよかったと思います。ケアマネジャーさんから市のやっている認知症介護者の会「さくら会」のパンフレットを以前から渡されていたのですが、それまでは母の病気を認めるのが怖くて、しまったままにしていました。でも友達から家族会を探すように勧められたので、出かけてみました。そこでは皆さん明るくて、私も自分の経験を話したら受け止めてもらえて、自分の中にすっと風が吹いたような気持ちになりました。そこで「つどい場さくらちゃん」をされている丸尾多重子さんにお会いしてそちらにも出かけるようになり、皆さんにいろんな介護体験の話や悩みを聞いてもらいました。