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「介護者同士が共感できる場を」―認知症患者の介護家族の声③


 
■「私が症状を受け入れればいい」
 
――お母様は、今はお薬はほとんど飲まれていないのですか?
 
先生と相談して薬も安定剤系は一切使っていません。利尿剤と痰を切る薬ぐらいで、睡眠導入剤も使っていません。アリセプトを飲んでせん妄状態になってからは、きちんと薬を見るようになりました。一昨年末、母がしゃべり続けて止まらなくなったので、私もパニックになったんです。それで薬を出してもらうと、大人しくはなったのですがぼーっとして歩けなくなりました。それで、先生に「母にとっていい薬ですか?」と聞くと、「これは家族のためのものなんです。在宅で見る場合には、眠れないとパニックになってしまう家族もおられますので」と言われました。要は、私が受け入れるなら飲ませない方いいということだったんですね。
 
――ご本人に必要な薬ではなくて、家族を休ませるために症状を抑えるというものなんですね。
 
それで、我慢じゃなくて私が受け入れれば、それがいいと思いました。母のしゃべる声を聞いていると、とても95歳の声ではないと思います。でも、次の日は別人のように大人しくなるんです。私にはそれが、「明後日はしゃべるぞ!」とエネルギーを蓄えているように見えるんですね。母がいなくなるとこの声が聞こえなくなります。その日は必ず来ます。その時私は絶対に、いくらうるさくてもいいから、あの時に戻りたいと必ず思うと思います。そう思うと、今のこの時を大事にしたいという思いがいっぱいなんです。母はこうしてずっとしゃべっていますが、私は母がうるさいとは絶対に言わないでいこうと思っています。母はずっとこうして話しているのですけど、私が洗濯ものを落としたら「あんたそこ落としたよ」と言います(笑)。そしてあまりにも母がしゃべる時、私はいら立ちを紛らわせるために母の前で自己流に踊ってしまうのですけど、それを見た母は「あんたちょっとおかしいんじゃないの」と言うので、「その言葉全部お母さんに返すわ」と言います(笑)。母はしゃべっているけど、認知症の症状を抑える薬は飲んでいないので手元もしっかりしています。どちらを取るかと言ったら私は飲ませないです。最後まで薬は飲ませないで、クリアであってほしいという気持ちでいます。認知症は病気だけど、症状は関わり方で改善してほしいと思っています。そういうことを分かってもらえるお医者さんが正直少ないと思います。
 
――有岡さんご自身が、さっき仰ったように「母を守る」ということから受け入れて、勉強して、医療者にも希望を伝えて。そういう段階を経て介護をしておられるというのはすごいことだと思います。 
 
母が私を忘れたことを受け入れたかというと100%は受け入れられてないと思います。でも、記憶の引き出しがうまく出せていないだけで、私のことは本能で覚えていると信じています。介護はつらいだけで、髪を振り乱して、というのは、私は違和感があります。それだと母に苦しまされていることになってしまうので、それは絶対に嫌です。私は、今が一番幸せだと思うんです。だって大変なことがあるから幸せがあるでしょう。表裏一体だと思います。母が認知症にならなかったら素敵な人たちにも出会わなかったです。最後まで母らしく、もし明日母が亡くなったとしても、母らしく生きさせてあげたいというのが、今の最大の望みです。
 
 
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