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和田秀樹×中川恵一 の がんでもボケても

がん治療と緩和ケアに取り組む中川恵一氏、老人問題にも通じた精神科医の和田秀樹氏、この2人が、日本の医療をひそかに規定している日本人の心に斬りこみます。

がんと認知症は似ている

和田 今回対談を持つことになったきっかけは、私の扱う老年医学の多くの病、とくに認知症などの不可逆病と、中川先生のご専門のがんというのは、臨床的観点から考えてかなり似ているのではないかという話が出たことでした。例えば、「告知が難しい」のもそうですし、急激に症状が悪化してしまう人がいる一方、実は進行のかなり緩やかな人もいる点もそう。一般に若いほど進行が早く、お年寄りは進行が遅いといわれていますが、経験から、お年寄りでも進行の遅い人もいれば、そんなに歳をとっていなくても進行が遅い人もいます。

中川 確かにがんも認知症同様、個人差がかなり大きいんですね。しかも、例えば前立腺がんは全体として5年生存率が80%くらい、一方すい臓がんは5%くらいなんですが、それをひとつの言葉で「がん」として括ってしまっている。原因となるピロリ菌を抗生物質で除去したら治る血液がんも、手術や移植を治療手段とするようながんも、みな「がん」です。ですから最近出てきた「がん保険」など、治癒率80%のがんも5%のがんも同じ扱いです。やはり病名というものも、もう一度考え直すといいような気がしますね。

和田 我々医学の世界ではついつい病名をつけたがります。例えば、今では頭の中の写真が容易に撮影できますからアルツハイマーか血管性の認知症かの診断を簡単につけてしまいます。高齢になれば、たいがい動脈硬化や多発性脳梗塞が見られるので血管性の認知症と診断することが多いのですが、年齢とともに動脈硬化も進みますので、「治療できる」と言われる血管性の認知症も結局はアルツハイマー同様、進行性の病態をたどるんですよね。

中川 つまり特定の検査や検証の結果だけを絶対視して診断を下すことが本当に正しいのか、ということにもなるでしょうか。

和田 ええ。そもそもメカニズム的な分類から診断名をつけることはあまり実用的でない。例えば認知症なら、むしろ患者さんや家族が気にするような、進行の速さと精神症状の有無で分類すべきです。それをもとに「ご主人の場合進行がゆっくりですよ」とか「かなり急速に進みますので」とそれなりの覚悟をしてもらうとか、一人ひとりの病態に応じて適切なアドバイスをしていくことのほうが重要でしょう。

中川 よく言われるように、例えば肺がんでも、ずっと以前、医療機器の発達していなかった時代であれば、肺がんで亡くなるお年寄りの多くは単に「老衰」と認識されていたわけですしね。

和田 結局、がんも認知症も、つまりはどちらも老化現象なんです。ですから、「この薬を飲めば治る」というような類のものでもない。老化そのものは止められないですからね。

中川 そうして、以前は、それを自然に受け入れていました。

和田 ところが今では、「認知症」と「がん」、つまり「老い」こそ日本人が最も恐れるものになっている。

中川 ええ。そしてとにかく長く元気でいて、ある日突然"ぽっくり"逝きたい、みんな、そう思っています。

和田 ただ、おかしいなと思うのは、今の日本人がそれと全く逆のことをしているんですよ。つまり、「ぽっくり」逝きたいというのは、脳卒中や心筋梗塞によって死にたい、ということなんですから、だったら塩分を控えたり、飲みたいもの食べたいものを我慢したりなんてしなくていい。そんな健康オタクにならないほうがいい。

中川 "健康のため"に血圧をコントロールしてみたり、なんてやっていると、突然死が回避できる分、やっぱり「がん」か「認知症」になる可能性が高くなるわけですからね。

和田 だいたい「認知症」も「がん」も"悪いこと"と認識されていて、がんなどは根治できなければ「医療側の敗北」とまで言われるけれど、認知症はもちろん、がんだって、根治できなかったからといって即、死を迎えるわけではないでしょう。あくまで老化の1プロセスと考えるほうが妥当だと思います。

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