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ストップ!! 医療崩壊3 医療者が足りない

31-2-1.JPG必要な時は貧富の差なく平等に受けられる、そんな日本の医療が風前の灯火です。
でも現場の医療者を責めないでください。
怠けているわけじゃないんです。

監修/高久史磨 自治医科大学学長
    土屋了介 国立がんセンター中央病院院長
    上 昌広 東京大学医科学研究所客員准教授

世界の4分の1

 今までも何度か、医療崩壊を食い止めようと特集を組んできました。しかし残念ながら力及ばず、流れを変えることはできませんでした。そしてついに、産科や救急など医療者にとって危険性の高い分野から、医療を受けたくてもなかなか受けられないという崩壊が始まってしまいました。
 医療というものを人体にたとえるなら、いくつかの臓器で機能不全が起き始めているようなものです。他の診療科も無傷ではありませんので、いずれ医療全体が機能不全に陥る可能性もあります。
 これまでの特集は、医療界の自己治癒力を信じて、その"体力"が温存・回復されるよう、患者側も上手に振る舞いましょうと穏やかなスタンスを取ってきました。しかしどうやら、もっと"積極治療"を訴える時期に来たようです。
 今回の特集では、医療界を弱らせている"症状"のうち、最も根本にあると考えられる「人手不足」に焦点を当て、その傾向と対策を見ていくことにします。
31-2.2.JPG では手始めに、人がどの程度足りないのか、先進各国と比べてみましょう。
 人口あたりの医療従事者数で見ると、日本はこんなに少ないのです(左表参照)。
 これで驚いちゃいけません。実は日本は突出して人口あたりベッド数が多いため、同じベッド数あたりで見ると、ドイツは日本の2倍、イタリアは3倍、アメリカは5倍、イギリスにいたっては8倍なのです。しかも、その格差が拡大傾向にあります(下グラフ参照)。医療従事者が相手をするのは、全国民ではなく患者さんですから、格差の実感はこちらの方が近いわけです。
31-2.1.JPG どうして、こんなにスタッフが少なくて済むのでしょう。答えは簡単。先進各国に比べ、少ない人数で同じ業務を担当している、すなわち1人がより多く働いているからです。
 なんと生産性が高いことよ、と感心している場合ではありません。これが、どれほど危険なことか次項で改めて説明します。その危険性と、それにもかかわらず社会からの要求が過大であることの二つに持ちこたえられなくなったから、医療現場が崩壊し始めているのです。早急に人手不足を是正しなければいけませんし、まだ現場に踏みとどまっている人々が雪崩を打って立ち去る前に、いつまで耐えれば状況が好転するのか希望の灯をともさねばなりません。
 すべきことは、人を増やすかベッド数を減らすか、その両方ということになります。でも、ベッド数を減らすということは、潰れたり規模縮小したりする病院が出てくるということ。
 あれ? 医療崩壊現象に似ていますね。
 もっと人を増やすというのは、どうでしょう。これが言うは易く行うは難し。医療資格を持った求職者はそんなに多くありませんし、そもそも赤字の病院が多く、今以上に人件費を払う余裕などないのです。
 まさに八方塞がりです。

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