診療科の収支調査、狙いは医師人件費の実態把握?
中央社会保険医療協議会(中医協)の医療機関のコスト調査分科会(分科会長=田中滋・慶應義塾大大学院教授)は7月10日、厚生労働省が示した「平成20年度医療機関の部門別収支に関する調査報告(案)」を了承した。
調査は、DPC(入院費の定額払い)を導入している全国の190病院を対象に実施し、127病院から回答を得た(回収率66.8%)。調査によると、ほとんどの診療科で外来が赤字、入院は黒字だった。
入院と外来を合わせて最も黒字だったのは「眼科群」(収支差率プラス18%)で、「外科群」(同5%)、「産婦人科群」(同)がこれに続いた。「内科群」は収支差額がゼロだった。
最も赤字だったのが、「皮膚科群」(収支差率マイナス46%)、次いで「放射線科群」(同22%)、「精神科群」(同19%)、「麻酔科群」(同17%)などの順。
今回の調査結果について委員の関心は、診療科別の収支よりも、「入院が黒字で外来は赤字」という点に集中した。
これに対し、今回の調査研究委員会で委員長を務め、オブザーバーとして出席した池上直己・慶應義塾大医学部教授は次のように述べた。
「人件費総体として見た場合に、やはり医師の人件費が一番大きい。医師が外来に張り付いている時間の割に、病院の収支に対する貢献として見た場合に、例えば外来を5時間やる場合と手術を5時間やる場合と、どちらが収支がいいのかということを考えると、病院全体の経営に与える影響はやはり手術をした方が大きいのではないか。ということから、全体的な傾向として、多少はより精緻にしていかなければいけない事務職員の(人件費の)『配賦』(費用の割り振り)の問題があるが、『医師の人件費』という観点からすると、(入院黒字で外来赤字)という傾向が見られるのではないか」
■ 委員の反応
皮膚科が大幅な赤字を示したことについて、皮膚科の専門医である西岡清委員(横浜市立みなと赤十字病院長)は、「皮膚科の場合は全体的に入院患者の数がそんなに多くない。外来が主体になるので、しかも外来でマイナスがドッと大きくなってしまうので、こんな結果になるのかな」と感想を述べた。
→ 2ページを参照。
公認会計士の石井孝宜委員(石井公認会計士事務所所長)は、「10~15年前に民間病院が黒字で、パブリックセクターが赤字だという基本的な判断とは全く逆」と指摘。「利益率が高くて金額も大きくなるという収支の規模による違いが非常に鮮明化している」と分析した。
→ 3ページを参照。
「外来が赤字、入院は黒字」という調査結果について、全日本病院協会の副会長を務める猪口雄二委員(医療法人財団寿康会理事長)は、「外来はこんなに赤字でやっているのか」と感想を述べた上で、「(黒字の)入院と(赤字の)外来を合わせて全く利益がない。全く利益がないということは、病院は再生産していけない。医療の高度化に、今の診療報酬で対応することはできない」と指摘した。
→ 4ページを参照。
11の病院団体でつくる「日本病院団体協議会」の議長を務める小山信彌委員(東邦大医療センター大森病院心臓血管外科部長)は、「外来がないと入院の患者さんを確保できないのが今の日本の医療の現状」とした上で、「入院・外来計で(収支を)見た方がデータとしては望ましい。入院と外来を分けずにトータルの中で話をした方が安全」と主張した。
→ 5ページを参照。
尾形裕也委員(九州大大学院医学研究院医療経営・管理学講座教授)は、調査対象について、「日本の病院の全体の分布から見ると、かなり大規模病院にウェイトがかかっている。DPC対象病院、準備病院(を対象にした調査)なので、急性期医療を中心としている。『中小病院で慢性期』みたいな病院はあまり反映されていない」と指摘した。
→ 6ページを参照。
池上直己・慶大教授(診調組委員)は、入院と外来の収支に着目する意見に対して、「最大の力点は『診療科』という部門で(収支を)見ることであり、必ずしも入院と外来を分けて見るということではない。今後は、『診療科群』で部門別の収支を見た方が全体像を把握できる」と述べた。
→ 7ページを参照。
椎名正樹委員(健康保険組合連合会理事)は、今回の調査と医療経済実態調査との関係を質問した上で、「医療経済実態調査とのかかわりとか重なり具合とか、その辺をある程度整理して(中医協)基本問題小委員会に上げてあげないと、きちんと理解してくれるかどうか個人的には心配」と述べた。
→ 8ページを参照。
これに対して、厚労省保険局医療課の小野太一・保険医療企画調査室長は、「(医療経済実態調査の結果が出た)段階で、2つが"まな板"の上に乗るので、どういうふうに(両者の関係を)見ていくかはまさに基本問題小委員会の(遠藤久夫)小委員長とご相談をしてやっていきたい」と回答した。
→ 8ページを参照。
【目次】
P2 → 赤字の皮膚科、「外来主体なのでこんな結果」 ─ 西岡委員
P3 → 「10~15年前とは全く逆」 ─ 石井委員
P4 → 「今の診療報酬で医療の高度化に対応できない」 ─ 猪口委員
P5 → 「入院と外来を分けずにトータルで」 ─ 小山委員
P6 → 「慢性期の中小病院が反映されていない」 ─ 尾形委員
P7 → 「今後は『診療科群』という単位で比較すべき」 ─ 池上教授
P8 → 「医療経済実態調査との関係を整理すべき」 ─ 椎名委員