文字の大きさ

過去記事検索

情報はすべてロハス・メディカル本誌発行時点のものを掲載しております。
特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

梅村聡の目⑦ 地域の声受け国会質問 医療機関へ仮払い実現

関西版『それゆけ!メディカル』限定コンテンツです。

 東日本大震災による福島原発事故で被害を受けた世帯や事業者などに対し、東京電力は賠償金の仮払いを行っています。しかし住民の生活を守るはずの医療機関が対象に入っていなかったので、急いで国会質問して仮払い実施にこぎつけました。厚生労働省が地域のニーズを把握しきれていないことが、ますます露わになっています。

 大震災発生以降、被災地域の首長さんや医療関係者から「何とかしてほしい」という電話が頻繁にかかってくるようになりました。以前紹介した透析患者の搬送もその一つで、できる限り問題解決に当たってきました。
 中でも医療機関の資金繰りは切実な問題です。5月までは3月11日以前の診療報酬でなんとか運転資金を賄えていたとしても、報酬の入らなくなる5月以降に資金繰りがショートするのは目に見えていました。人件費を支払えず、スタッフが無償で働いている施設もあれば、解雇せざるを得なくなっている所もあります。医療機関が立ち直らなかったら、地域から医師や看護師などの医療者はいなくなり、ただでさえ医療過疎になっている地域の医療は崩壊してしまいます。医療は電気や水道、警察や消防などと同じ社会インフラですから、住民にとっては死活問題です。
 それなのに、福島原発事故の被害を受けた医療機関が東電の賠償金仮払いを受けられなくて困っていると聞きました。ある方が東電のコールセンターに「医療法人である医療機関でも損害賠償の仮払金を受けられるのですか」と6月21日に訊いたそうです。すると東電側は、仮払いを受けられるのは中小企業基本法に定められた「中小企業」で、医療法人、社会福祉法人、学校法人などは入らないと説明したとのこと。福島県内の首長さんに確認してみると、やはり「困っているから何とかしてほしい」という話でした。
 今回の賠償は、中小企業に対して行われる営業損害の補てんという位置付けですが、医療機関への補償はもっと優先度が高いはずです。なぜなら、医療機関がなくなると困るのは住民で、補償の受益者に住民も含まれるからです。医療機関に補償することで、「市町村機能の維持」と「社会資本の維持」が果たされます。私が医師であるから言うのではなく、住民や市町村の立場から考えてもそうです。原発から50キロ圏内にある医療機関は、わずか300施設ほど。それぐらい国が面倒をみないでどうするのでしょう。
 加えて合点がいかなかったのは、中小企業基本法は国の経済発展を理念に掲げる法律で、賠償のことを考えて作られたわけではありません。そこに今回の賠償範囲を当てはめて考えるのは、どうにも筋の通らない話です。
 色々聞いていくと、経済産業省や東電は損害賠償の補償範囲について、商工3団体と言われる「商工会議所」「商工会、商工会連合会」「中小企業団体中央会」と話し合って決めたということでした。本来なら厚労省が「医療機関についても補償しろ」と乗り込んで行って賠償を求めていいはずのところです。そこに厚生労働省は全く絡んでいなかったというのだから驚きました。国の医療を守る気があるのかどうか、疑いたくなるような話です。
 私は7月12日の参議院厚生労働委員会で、この件について、経産省と厚労省を相手に国会質問しました。賠償範囲に中小企業基本法を当てはめられるのは全く納得できませんでしたが、まず最低限の対応を急ぐために、「中小企業」の範囲にある「サービス業」、「資本金5000万円以下」「従業員100人以下」の基準に入る医療法人についてはすぐ仮払いの対象にすべきと求めました。経済産業省からは、「すぐに対応する」という答えを引き出しました。

本気になれるか厚労省

 この質問がきっかけになり、東電は医療機関にも仮払いを始めています。福島県の医療機関などからお礼の電話やお手紙をいただくようになりました。しかし従業員100人以上など規模の大きい施設、いわば地域の中核病院は仮払い対象に依然として含まれていません。現在、適用範囲の拡大を経産省にお願いしています。
 また仮払い金額の上限は250万円なので、人件費も払えずにいる医療機関の継続的な運転資金としては全く足りません。解決策として、今年度の第2次補正予算の震災復旧・復興予備費8000億円にこの賠償金を盛り込むか、第3次補正予算として新しく入れるか、または来年度の診療報酬改定で何らかの加算をつけるかなどが考えられます。ここからは厚労省と経産省の折衝なので、厚労省がどこまで本気になってこの問題に取り組めるか、この国の医療を守る気があるかどうかです。
 私が国会質問した際、大塚耕平厚生労働副大臣は「もっと目配りが必要だった」と答えました。正直、残念に感じました。厚労省は、こういう時に縄張り意識を発揮しないでどうするのでしょうか。自分たちの管轄する医療機関に被害が及んだと主張して、賠償金の確保に向けて動くべきです。厚労省がしっかり動いていれば、私が質問する必要もなかったかもしれません。放射線の除染や原発作業員に関する問題も大事ですが、厚労省には地域医療を守る視点を持ってもらい、今こそ頑張ってもらいたいと思います。
 国会議員である私の仕事は、まずはこの問題を採り上げ、小さい範囲からでも賠償を実施させることだったと思っています。突破口さえ開けば、その後に賠償範囲の拡大や上限額の引き上げなどを考えていけます。小さくても解決法を発射台に載せて発射させることが政治家の仕事であり、後は省庁のやり方次第です。

国会議員に地域が直結

 とは言いつつ、今回画期的だと思うこともあって、それは地域の声が直接国会議員に届いて省庁を動かしたことです。これまでの国会質問は多くの場合、まず市町村から都道府県に問題解決を求める声が上がり、都道府県から省庁に伝わり、根回しされた上で政治家が動くというパターンだったのです。今回は、地域の医療者の声を聞いた私が国会質問して、厚労省や経産省が動きました。
 結局のところ、厚労省は地域で起こっているニーズを把握できず、自ら経産省との折衝を行えていなかったわけです。霞が関が地域の問題を把握し切れないということがよく現れています。今後は、地方自治体が地域に合った動きをできるよう、こうした質問のスタイルができていくのではないかと思います。

  • MRICメールマガジンby医療ガバナンス学会
  • 「認知症 それがどうした!」電子書籍で一部無料公開中
サイト内検索
掲載号別アーカイブ