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梅村聡の目⑩ 受診時定額負担制度 許すわけにいかない

医療機関に行くたび無条件で100円余計に払わなければならない「受診時定額負担」という制度を厚労省が作ろうとしています。国民を甘く見たとんでもない制度なので、ぜひ皆さんに関心を持っていただきたいと思いますし、決して通すわけにいかないと思っています。

 今年の6月30日に、「社会保障・税一体改革成案」がまとめられました。2015年度における財政目標と2025年度に向けた医療・介護サービスのグランドデザインが描かれています。政権が代わって、一つの方向性が示されたことは良かったと思いますが、問題は中身が玉石混淆なこと。中でも「スジが悪いもの」の代表格が受診時定額負担制度です。現在、みなさんが医療保険証を持って医療機関を受診した場合、かかった医療費総額の3割(高齢者の場合は1割か3割)を窓口で支払います。その窓口支払い金額にさらに定額(100円)を上乗せしようというのが今回の制度です。
 過去の亡霊が蘇って来ました。

実は保険免責制度

 何が過去の亡霊かと言うと、この制度は実体として、過去に議論され否定された「保険免責制度」と何ら変わらないからです。診療報酬に1回100円上乗せしたうえで、その100円を免責しているだけのことです。
 「上乗せ」した診療報酬分は、高額療養費の自己負担上限額引き下げに使われるという説明です。反対されるかもしれない受診時定額負担制度をスムーズに通すため、高額療養費制度の患者負担分を下げるという誰も反対しそうにないことと抱き合わせにしたのです。"人質"にされた形になった高額療養費の患者負担引き下げについても論点はあるので、後ほど述べます。
 さて「保険免責制度」は、小泉純一郎元首相による"小泉改革"当時も導入が検討され、最終的に見送られました。日本の公的皆保険制度にはなじまないというのが大きな理由で、当時の与党の自民党も反対しています。そして健康保険法の附則に、保険給付は「将来にわたり100分の70を維持する」という文言が新しく書き加わりました。将来にわたり自己負担を3割以上には上げない、つまり免責制度も導入しないというタガがはめこまれているわけです。
 しかし財政難にあえぐ財務省は免責制度を導入したいので、厚労省に「免責制に近い考え方の制度を作りなさい」と指令を出しました。そして出てきたのが今回の受診時定額負担です。「100円ぐらいいいじゃないか」という意見もあるかもしれませんが、そこは蟻の一穴。一度始めてしまえば200円や500円など、すぐに引き上げられてしまうでしょう。

保険の仕組みではない

 保険とは、加入者全員で、よりリスクの高い人を支えるという仕組みです。ところが今回の受診時定額負担は、軽い病気の人が重い病気の人を支えるおかしなことになっています。分かりやすく車の自賠責保険に例えると、加入者全員で支える仕組みの中に、物損事故に遭った人が人身事故に遭った人を支える仕組みも新たに設けることになります。おかしいですよね。歯科の場合はもっとヒドくて、高額なものには元々保険がほとんど効きませんから高額療養費の患者負担上限額が下がっても関係なく、物損事故に遭った人がどこかにお金を上納させられるようなものです。
 もし高額療養費の患者負担上限額を下げたいのであれば、①税金投入 ②保険料値上げ ③窓口3割負担以下の人たちの負担率を上げる の三つが本筋です。私見では、税金や保険料などからのお金で基金を作って対応すべきと考えます。しかし財務省や保険組合、事業主に何も言えなかった厚労省は、一番文句の出にくいであろう患者さんの自己負担額に上乗せをしようと言うのです。
 このやり方は、強いものには弱く出て、弱いものに強く出るという、役所としてあるまじき態度だと思います。国民も、ここまで舐められたことに怒らねばなりません。
 そもそも高額療養費制度自体、患者さんの自己負担を大幅に下げるものです。例えば半年間以上、治療(支払い)が続くような方の負担上限額はさらに軽くした方がいいと思いますが、短期間の高額療養を受ける方(1~3カ月程度)の負担上限額までさらに下げなければならないのか、もっと議論すべきです。実際のところ1カ月か2カ月で終わる人も多いはずです。
 そう思って、保険局に支払期間別の受診者数のデータを出してほしいと伝えたところ、「全国調査の結果はない」と和歌山県だけのデータを持ってきました。
 データに基づいて議論するのが社会保障と税の一体改革なのに、数字が出てこないのは、深く考えて設計された制度ではない証拠です。こういう制度改正を立法府が許すと、次々におかしなものが出てきてしまいます。変な前例を作ってはいけません。

免責は真っ向議論を

 免責制そのものについては、今回のようなこっそりしたやり方ではなくて真っ向から議論すべきです。国民皆保険制度の根幹を問うものですから、国民的議論が必要です。議論の仕方としては明快で、パブリックコメントなどで国民に例えば次の3択を示します。①日本に保険免責制を導入 ②混合診療を全面解禁 ③税・保険料の負担増を多少我慢して国民皆保険制度を守る――③が最も多いのではないかと、私自身は感じます。
 確かに免責制を導入すれば、短期中期的には医療保険の財政状況は良くなるかもしれません。しかし日本全体にとって本当に良い影響をもたらすかどうかは慎重な議論とシミュレーションが必要でしょう。
 私自身は、お年寄りの幸福感は自分のお金を自由に使えるところにも由来すると思っています。医療機関に行くたびに100円余計に取られるようになれば、頻繁にリハビリに行く人などは月に2000円ぐらい軽く余計にかかってしまいます。お年寄りの財布の紐は固くなり、通院を制限してしまう人も出るかもしれません。景気の「気」は気分の「気」。短期的には良くても、ボディブローのようにじわじわと日本全体の景気に影響することでしょう。
 いずれにせよ、今回の話には、いかに厚労省が国民を甘く見ているか如実に表れています。皆さんも、こうした情報にアンテナを張り行政を監視していただきたいと思います。

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