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科学的根拠は意外と気まぐれ~駒村和雄の異論・反論⑧

循環器内科医 駒村和雄
 「統計的に有意だったので......」というような会話を、製薬関係者はもちろん、最近は食品関係者もしていることがあります。医学の場合、2データ間の差が偶然の産物である確率「P値」を計算して5%(0.05)未満の場合に「統計的有意差」があると言います。

 科学的エビデンスと称される研究報告、特に医療系の論文では、この「有意差」が論文発表の絶対条件で、「有意差」を得んがためデータ不正や論文捏造に誘惑されてしまう研究現場の実態や医療系研究者の存在が、一般の方にも知られるようになってきました。

 私も含めて研究を業務とする人種にとって、「善悪」「優劣」「勝敗」と同じと言ってもよいくらいの用語です。ところがそんなP値が、少しの差を検証しようとすると、実は実験を繰り返す度にくるくる変わると知ったら、どうでしょう。

異論8.png

 例を使って説明します。下図のような関係にあるAとBの2群から10個ずつ標本を取り出して2群間の平均値の差について統計検定する実験をコンピューター・シミュレーションで行うと、時に有意だったり(P値が0.05未満)、有意でなかったり(P値が0.05以上)します。英国ローハンプトン大学のハルゼイ氏らによれば、標本数を各群100以上用意するなどして検出力(本当に群間に差がある時、間違えずにそれを見つけ出せる確率)が90%を超える実験デザインにしない限り、つまり10回の実験中9回は有意差として検出される実験デザインでない限り、有意差が判定されないというのは極めて普通だそうです。例えば検出力がほぼ90%のデザインで反復実験すると、P値が0.05未満になる確率は56%しかないとのことです。

 ところで、世の中のほとんどの臨床研究では、検出力を80%に設定しています。90%に設定したいところですが、膨大な症例数を集めるのに必要な莫大な金額と時間のために現実的ではないのです。検出力80%だと反復実験で有意差が繰り返し出る確率は、さらに減ります。そこで同氏らは「P値による白か黒かの二分法による判定は、より成熟した方法にとって代わられるべきだ」と主張しています。既に、社会心理学系の雑誌でP値の使用を禁止したものがあるそうです。

 でもP値が使えなくなると、「科学的に正しい」論文を出版しないといけない、大学カーストの最底辺にいる大学院生たちの苦悩は、かえって増えるのかもしれません。
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