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前向きな気持ちが認知症リスクを下げる~それって本当?

ちょっとした問題があってもくよくよせず、意識して物事の良い面に目を向け、プラス思考でいると、近い将来の認知症予防になるかもしれません。
専任編集委員 堀米香奈子(米ミシガン大学環境学修士)
 幸福感や満足感などポジティブ(前向き)な感情を強く持つ人ほど、認知症リスクが下がるという研究成果が今年4月に発表されました(コラム1参照)。

(小見出し)
うつ改善・予防効果

 なぜ前向き感情でいると認知症リスクが下がるのでしょうか。今回の研究は、全国約30市町村、14万人の高齢者を対象にした日本老年学的評価研究(JAGES)プロジェクトの一環です。プロジェクト・リーダーである千葉大学予防医学センター社会予防医学研究部門の近藤克則教授は、前向き感情と認知症リスク低下をつなぐカギは、「うつ」の改善や予防と見ています。

 これまでの様々な研究で、うつはアルツハイマー型認知症のリスクを高めるという考えが多く示されてきました。「うつ症状改善には、認知行動療法が、抗うつ剤と同じくらい有効であることが確認されています」と近藤教授。「歪んだ認知や行動を修正して前向き感情を取り戻すのです」

 例えば、何かを一回失敗しただけで、「いつも失敗する」「失敗した自分に価値はない」「次も失敗するに違いない」などと否定的に捉えてしまうのが、「歪んだ認知」です。認知行動療法では、客観的事実について現実に沿った柔軟な見方ができるよう練習します。失敗しても、「成功したこともある」「諦めずに挑戦する私には価値がある」「次はうまくいくかもしれない」などと前向きに捉えられるようになればしめたもの。心も前向きになり、結果としてうつ状態改善を期待できます。

ストレス対処に差

 そもそもなぜ人によって認知に歪みが生じたり、その程度に差が出たりするのでしょうか。

 大きな影響を与える要素として、近藤教授が提唱しているのが、一人ひとりの「生き抜く力」です。

 「生き抜く力」は、「生活上の出来事や客観的状況において緊張が生まれた時、ポジティブに認知し、適切に行動選択・行動できる力」と定義されています。具体的には、人生の出来事を自分で制御できているという感覚(自己コントロール感)や、自己肯定感、首尾一貫感覚(生活の中の出来事には何らかの意味があり、把握可能で、適切に処理できるという確信)といった、重なり合う複数の概念をひっくるめたものです。

 「生き抜く力」の中でも中核をなすのが、「ストレス対処能力」とも呼ばれるSOCです(コラム2参照)
 実際、SOCのストレス緩衝効果を冒頭の調査を元に検証したところ、SOCの低いグループほどストレス事象の数に伴ってうつ状態の人の割合が増えたのに対し、高いグループでは増えていませんでした。近藤教授によれば、「SOCが高いと認知症になりにくい」という研究成果も学会発表されているそうです。

今からでも遅くない

 なお、「15歳の時点での社会経済状況が65歳時のSOCに大きく影響する、という学会発表もあります」と近藤教授。「『15歳の頃、あなたの生活レベルは周りの人と比べてどうでしたか』という質問をしたところ、『貧しかった』と答えた人は65歳以降に、うつや睡眠障害が多く見られたり、野菜の摂取量が少なかったりしました。北欧の10万人を対象にした研究では、現在大金持ちとなっている場合のみ影響は消えていましたが、2番目に裕福なグループでは、子供時代に貧しかった群で死亡率が高いという結果でした」

 逆に、SOCが高い人は、成人初期までに、比較的安定した生活の中で周囲に尊重され、自らの意思決定が成功に繋がるなどの良質な人生経験を積んだ傾向があるといいます。

 「そう聞かされても、今さらもう遅いじゃない」と悲観的になるのが一番いけないのは、ご説明した通り。今からできることを考え、「生き抜く力」を少しでも高く保ちましょう。普段から物事を後ろ向きに捉えがちな方は、認知行動療法を受けてみることも検討してはいかがでしょうか。

 というわけで、次回は認知行動療法についてご紹介します。
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