感染症予防に重要な手洗い。ただ、その目的は病原体を流し落とすことで、薬用石けんを使ったとしても、殺菌を期待するのは無理があるようです。
専任編集委員 堀米香奈子(米ミシガン大学環境学修士)
昨年9月2日、米食品医薬品局(FDA)は、トリクロサンやトリクロカルバンなど19種類の殺菌剤を含む抗菌洗浄剤の販売停止を発表しました。
ホームページで同医薬品評価研究センター長の説明を引用し、「水と石鹸で洗うより殺菌効果があるという根拠はない」「殺菌成分は、健康に良いどころか、長期的にはむしろ害になるというデータもある」と理由を説明しています。害として具体的に想定されるのは、耐性菌の発生や、内分泌かく乱(環境ホルモン)だそうです。
慌てないでOK
日本でも「薬用」を謳った石鹸やハンドソープ、ボディーソープ、洗顔料、練り歯磨きなどの一部にこれらの殺菌剤が配合され、現在も販売されています。
「薬用」を勝手に謳えるわけではありません。身体用の固形や液体の石鹸は、医薬品医療機器等法(薬機法、2014年までは薬事法)の規制を受け、「化粧品」と「医薬部外品」に分けられます。普通の石鹸類は化粧品扱い、殺菌剤が含まれ「薬用」を謳う石鹸類は、医薬部外品です。
医薬部外品は、厚生労働大臣の承認を得て初めて「皮膚の清浄・殺菌・消毒」といった効能・効果を標榜できます。成分表示は、日本石鹸洗剤工業会の自主基準にのっとっています。厚労省によると、問題の成分を含む薬用石鹸は、現在流通していない製品を含め約800品目承認されてきたとか。
これまで健康被害が報告されていないことから、厚労省はFDAと同様の販売停止措置は取らず、メーカー側からの要請に応える形で、代替製品へ切り替える際には迅速に審査するなどの措置を1年間実施する旨、9月30に通知しています。
殺菌効果は期待薄
さて、FDAの「水と石鹸で洗うより殺菌効果があるという根拠はない」の指摘に驚いた方も多いことでしょう。
医療法人幸寿会平岩病院の大久保憲院長は、「元々が低濃度ですし、さらに水と一緒に泡立てて短時間使用するだけですから、充分な殺菌効果は得られないでしょう」と話します。例えばトリクロサンを、欧米では医療機関用などで最大2%含むのに対し、日本の薬用石鹸では0.3%です。「その程度では、手などの殺菌効果よりもむしろ、開封後に長期使用する際の防腐目的の意味合いも強いかもしれません」
そもそも石鹸の本質は、洗浄成分である界面活性剤(図)によって、汚れを水となじませて落とすもの。
殺菌成分が入っているからと「薬用」「皮膚の清浄・殺菌・消毒」を謳っていても、実際に使用した際の殺菌効果を保証しているとは限りません。東京都福祉保健局も、手洗い実験の結果、薬用石鹸は普通の石鹸よりは殺菌効果があったものの、「たいした違いはない」と評価。普通の石鹸とお湯で二度洗いすることを勧めています。