年末の「独り言」~都のNICU増床政策に関連して

投稿者: 熊田梨恵 | 投稿日時: 2009年12月28日 18:24

 東京都は22日、都内のNICU(新生児集中治療管理室)を2014年度末までに、現在の約1.5倍となる320床にまで増床することを決めました。国が決めたNICU増床政策を受けたものです。それについて感じたことなど、普段はコメント欄としか使っていない本ブログですが、久しぶりに「独り言」として使ってみようかと思います。(熊田梨恵)

 私は東京都の周産期医療や救急医療、地域医療連携体制などを取材を通じて勉強させて頂いています。なぜ東京都かというと、他の自治体からの注目度が高いこと、国との関係の複雑さ、先進的な取り組みが多いことなどが理由です。

 先日も都内の周産期医療関係者が集まる協議会が開かれ、今後の周産期医療提供体制についての方向性の確認が行われました。その内容が、上記のNICUの増床です。昨年秋、都内の妊婦が8つの病院に受け入れを断られて最終的に受け入れられた都立墨東病院で死亡した問題から、受け入れ不能問題の解消のために国が出した報告書を受けて都が実施を決めました。これまでのNICU数は、出生数1万対20で整備されてきましたが、1万対30を目標とした数字です。増床については、「ハコだけ増やしても、働く新生児科医がいなければ意味がない」との声も大きいですが、多くの事柄において腰が重い行政が予算を付け、その方向に動いたということについては評価されていいのではないかと、個人的には思っています。
 この他にも東京都では、長期入院児の退院支援策の検討なども始めています。

 元々、都の周産期医療協議会は都内の周産期医療にかかわる主要人物が集まって、都からの報告を受けるという形だけのもので、実際にそこで何かを生み出すというような会議体ではありませんでした。委員の多くが東大出身者で構成されているのも気になるところです。しかし、先述した墨東病院問題を受けて、スーパー総合搬送コーディネーターなど、続々と新しい政策を打ち出しました。全国版マスメディアも都のこうした取り組みは追い掛けましたし、石原都知事と舛添前厚生労働相の応酬も記憶に新しいところです。

 しかし、スーパー総合も、「○○大はどうしても補助金が必要だったから、やる必要があった」など、色々な声を聞きます。協議会はスーパー総合について概ね成果を上げているとの評価ですが、現場からは「アルバイトで行った○○大がたまたまスーパーだったと後から聞いて知って焦った」、「スーパーの問い合わせ担当はPHSを持って動いている。気が抜けないから大変」「産科と新生児科の連携がいまだに微妙」「日赤は引っ越しで受け入れ制限をすることになると分かっていながらなんでスーパーを引き受けたのか」と、様々な声があります。現場によって様々な評価、声があるにせよ、一度設計された制度は現場を引きずるようにしてでも進んでいるのだとも実感します。少なくとも、墨東問題が起こる以前に比べると、都の周産期医療提供の形は変わったのだと感じます。そこをどう捉え、組み立て直していくかは今後次第だとも。
 
 
 
 
 先日、とある病院の医師たちが集まる忘年会にお声かけ頂き、お伺いしてきました。医師のキャリアとして脂の乗り切った40代前半のある方が、ぽつりとつぶやきました。「熊田さん。毎日毎日、やってもやっても日本の医療が良くなるとか全然思いもしないよ。それなのに、僕たちはどこまでやるのかな、やっていいのかなって思うよね。考えても、現場にいる僕らは目の前の事をやるしかないんだけどさ」。オンコールだという彼の前には、ほとんど飲まれていないウーロン茶のジョッキが置かれていました。
 
 秋の日の霞が関、行政に携わるある方は、「行政官だって、人間だから怖いんだよ。右往左往しながら、いつ刺されるんじゃないかと思いながら、でも何とかしたいと思って手探りでやってるんだ」と、積み上げられた資料に作業スペースがほとんどない机の前に座りながら、苦笑して話されました。深夜0時を回った頃、政権交代後で様子の見えない国会対応もあり、省内にはまだたくさんの人の姿が見られました。
 
 小児医療にかかわる市民活動をしているある方は、「みんな一生懸命なんです。倒れかけてる現場の先生たちもだし、自治体の職員の方たちも背中が折れ曲がりそうになるほど悩んでやってます。私たちの課題は、『医療に関心の無い人達』をいかに呼び込んでいくかなんです」。思いある人たちをつなぐ彼女らの活動は全国に広がりつつありますが、有志による活動は様々な困難も抱えているようです。

 非常に個人的な話ですが、私は未婚で子どももいません。結婚願望があまりないと言うと少子化のご時世、お叱りも受けそうですが、正直を申し上げて今の社会には未来を感じられず、子どもを生むことにためらいがあります。生身の一人の女性としての自分が感じていることも、今の社会の一つの断面ではないかと思います(暗くてすみません)。

 
 そんな私も自分の身の丈で、何ができるだろうと日々考えながら、年末を迎えました。まだまだ、模索するばかりです。

 

 今回の東京都のNICU増床ニュースは、他の自治体も行うと思われることなので、都の増床のみをロハスで取り上げる理由が見つからず、都の独自政策であるスーパー総合搬送コーディネーターの事をニュース欄では取り上げました。しかし、東京新聞やマスメディアの都内版も特に取り上げていなかったようなのでこのブログで紹介し、まつわることをつらつらと書いてみました。

 こうやって、どこも書かないことを書くことが弊社のニュースやブログの価値なのかとも思いますが、それでお金が回る仕組みがないのが難しいところです。


 今回は何のオチもない、ただの「独り言」です。

 今年もロハスメディカルwebへのご愛顧、本当にありがとうございました。
 読者の方々あってのニュース媒体です。
 来年もどうぞご指導のほど、よろしくお願い申し上げます。
 
 
 皆様よいお年を、お迎えくださいませ。
 
 
 
 熊田梨恵 拝

<<前の記事:予防接種法「不退転の決意で大改正」と上田局長    外傷性頚部症候群(むち打ち症)と新年のご挨拶:次の記事>>

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://lohasmedical.jp/mt/trackback/2622

コメント

いつも興味深く拝見しております。

まずは医療現場で働いているスタッフが働きやすい環境であることが大切なのだなと思います。
医療に携わってはいませんが現状に伴わないのが今の日本の姿ですね。

編集室の皆様もご自愛くださいませ。
来年も楽しみにしております。

>どこも書かないことを書くことが弊社のニュースやブログの価値なのかとも思いますが、それでお金が回る仕組みがないのが難しいところです。

ロハスメディカルブログのコメント欄はいつも盛況ですから1コメント投稿につき100円の有料投稿制にすればよいと思います。
つまり、コメントを投稿したい者が投稿ボタンをクリックすれば自動的に投稿者に100円が課金され、そのうち50円が「官に頼らずとも公は創れる」ワンクリック募金へ、残り50円は投稿者のコメントを掲載する掲載料としてロハスメディカルへ支払われるというシステムにすればよいと思います。
匿名で投稿する者も投稿1回100円となれば文章を推敲するでしょうし、徒に書き込む投稿者は減少すると思います。

もちろんブログ主自身のコメント投稿には一切課金されないという仕組みです。

今年もいろいろお世話になりました

いつも地方の片隅から応援しています

ロハスの方々の益々のご活躍を期待しております

4月の移籍から始まった波瀾万丈の1年間、お疲れ様でした。
情報の発信を維持する為の費用負担、なかなか大変かと存じます。
苦しみ続けつつ前進、それが人生であり、人の宿命かとも思う昨今です。
来年は、新しい一歩が拓ける良い年となりますよう、心より祈念しております。

ロハスメディカルさんの御健闘を祈っているいち医療者です。
その理由は、患者と医療者のあいだに立って両者の誤解を解き医療行政に働きかける良質の医療ジャーナリズムが切実に必要だからです。
医療そのものが実は大変な集約産業であり、医療廃棄物で環境を汚染しており(どの医療機関も大枚の費用を払って業者にゴミを引き取ってもらっています)、「何もしない」のがもっともエコなので(笑)、もともと自己矛盾なのですが。
中でも新生児医療は実に微妙な位置にあります。自然淘汰という言葉すら、注意して使わないと差別用語になってしまう、デリケートな現場です。最善を尽くして重度障害者を医原的に一定の割合で発生させてしまい(???これまた結果論であり、凡人である私はおろおろするだけですが)、いっぽう小児用の高度医療長期療養施設が絶対的に不足で、その結果、NICUが慢性的に病床不足膠着状態になっています。今のままの未熟児医療を推進していくならば、小児用の高度医療長期療養施設がもっともっと必要なのですが、赤字必須なので自治体も苦渋。税金で何とかするしかないのは自明のことなのですが。一人でも多く子供を生んでほしい、高齢出産で未熟児が増えてもやむをえない、今、日本はそういう非常事態ですから。
と脅かしておいて矛盾発言ですけど、自然という意味では、惹かれあう相手と恋愛して子供が生まれることほど自然な営みはありませんので、あまり例外的な医療問題に怖気づかないで、熊田さんの気持ちが変化することをお節介ながら密かに祈っております。

皆様

明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い申し上げます。

お返事が遅れまして、大変失礼を申し上げました。
皆様からの温かい励ましのメッセージ、大変有り難く拝読いたしました。
昨日に代表が記しましたブログにもありましたよう、ロハス・メディカル本誌に軸足を移すべく方向性をシフトしてまいりますが、
今後も引き続き変わらぬご指導賜りますよう、なにとぞよろしくお願い申し上げます。


私自身も、今の自分に何ができるかということを常に自身に問い続けながら、
精進して参る所存でございます。
年末の上記ブログにも書きましたが、読んでくださる皆様あっての我々です。
いつも本当に、ありがとうございます。
これからも、厳しくご指導くださいませ。


>生涯いち医師様

私が病院で働いていた頃の医療廃棄物のマニフェストをリアルに思い出してしまいました…。
業者との契約時の様々な取り決めの細かさ、院内での取扱い、
病院からの廃棄物というのも一つの視点だなと思っておりました(産科もありましたので。。)。

話がずれましたが、これからも新生児医療はずっと追っていこうと思っております。
ご指導、どうぞよろしくお願いいたしますね。

>熊田さんの気持ちが変化することをお節介ながら密かに祈っております。

ありがとうございます…。
自分の中にある観念的なものを超えるほどのものとの出会いを
見つけていけたらと思います(でももうハイリスク群かな・・・)。
一人の女性としても気持ち良く生きていける社会になることを願っていますし、
そのために自分もできることを頑張ります。
先生、どうもありがとうございます。


コメントを投稿


上の画像に表示されているセキュリティコード(6桁の半角数字)を入力してください。