気になった報道あれこれ、ちょっとずつ。

投稿者: | 投稿日時: 2009年12月14日 18:50

このところ、さほど派手には取り上げられないものの、またいくつか気になる報道がちょこちょこと出てきました。新しい話のほか、以前から気になっていた話題に関連するものや続報が相次いでいます。

①たばこの警告文は逆効果? 喫煙増やす可能性
②ヒブワクチン:足りない 供給量、0~4歳人口の5% 「任意接種」裏目
③英国滞在期間「1カ月以上」に 厚労省、献血禁止基準を緩和
④体外受精など、二重チェックの徹底を 学会、指針改定
⑤奇跡の医療革命!お母さんたちが立ち上がった!


今日はこれらをちょっとずつ、まとめて振り返ってみようと思っています。

①たばこの警告文は逆効果? 喫煙増やす可能性
(2009年12月11日 産経新聞)

タイトルからして、どういうこと?と興味をそそられますが、記事を読んでみると、【「一般的に、死に至る危険性を指摘する警告文が箱に書かれているのを見ると、その反応として、リスクのある喫煙習慣を続けようとしてしまう」】【「喫煙により、あなたの魅力が失われます」や「喫煙はあなたや周りの人々に大きな損害をもたらします」といった文で、死のリスクとは結び付けずに警告する方が、喫煙者の意識を変えさせるには効果的であることが分かったという。この傾向は特に、格好をつけるためや仲間に合わせてたばこを吸う若者など、自尊心を高めようと喫煙している人々に顕著だった】とあるだけで、死の危険性の警告文がどうして「喫煙増やす可能性」につながるかは、きちんと説明されていません。

そこで、この報道のもとになっているのが【米国やスイス、ドイツの心理学者らが、たばこを吸う心理学専攻の学生39人を対象に行った研究】ということから、心理学についてすこしかじってみました。すると、どうもこれは「ブーメラン効果」と呼ばれるもののようです。これについて説明したサイトは数多くありますが、わかりやすかったのはこちら。要するに、「説得の逆効果として、強い反発が芽生えてしまう」ということ。やっぱりそういうことは誰にでもある、普遍的な心の作用なんですね(なんて開き直っているのは私だけでしょうか?私は喫煙者ではないですが、「ブーメラン効果」については思い当たる節がありすぎるほどあります)。特に、左のサイトで説明されているように、「態度を硬化させる」という表現はかなりぴったりで、よくある話ですよね。

ただし、ひとつひっかかったのは、被験者の国民性などは関係がないのだろうか、ということ。実験を行ったのは「米国、スイス、ドイツの心理学者ら」ということですが、となると単純に考えて、被験者の学生も欧米人だったのだろうと思います。これがアジアやアフリカの人々でも、同じ結論に達するのでしょうか。また、被験者はみな学生とのことですから、おそらく年齢層も20~30歳代に偏っていることと思います。家庭(子供や孫)を持つ、もっと高い世代に層を広げて実験を行っても同じ結果か、そこも気になりました。ちなみに、たばこに関する警告表示の各国比較を見ると、言及の程度に差があるとはいえ、やはり健康被害への警告が並んでいます。それでも多くの人はこれらの表示を見ながらも喫煙を続けるわけですから、自尊心に訴える文章等、警告内容の研究そのものも、現状打破には多少の期待ができるかもしれませんね。


②ヒブワクチン:足りない 供給量、0~4歳人口の5% 「任意接種」裏目
(2009年12月12日 毎日新聞)

先日もこのブログで取り上げたヒブワクチンの不足。やはりというか、なんというか、【対象の0~4歳の推計人口約540万人(08年10月現在)に対して、現在の供給体制は25万人分で5%に満たない】とのこと。そして案の定、【「接種が無料な定期の1類疾病に指定すれば、子供の数から必要量が分かり、生産側も準備できて不足は起きない」】【「第一三共も「任意接種では返品も考慮せざるを得ず、それが裏目に出てしまった」】というわけです。この記事でも【予防接種の副作用を巡る訴訟で国が敗訴したことから消極的になった】とされる厚労省ですが、日本版ACIPへの期待もさることながら、それを待たずに【日本では年間約600人の乳幼児が発症し、死亡率は約5%に達するとされる】現状をもっと重く見ていただき、迅速な対応を求めたいところです。


③英国滞在期間「1カ月以上」に 厚労省、献血禁止基準を緩和
(2009年12月12日 日経新聞)

はっきりと書かれてはいませんが、新型インフルの影響で、やはり献血が減って、すでに輸血血液が足りなくなってきている、ということですよね。(記事では【日赤の試算では、これから1月にかけて新型インフルエンザの流行が拡大した場合、献血者1万~2万人分の血液が不足。制限緩和で不足状態の解消が期待できるという。】と、これからのことしか明言されていませんが。)その対策でいわゆる狂牛病への警戒を緩めたわけですが、そもそも新型インフルエンザウイルスへの警戒はどうなっているのでしょうか?海外でも依然、猛威を振るっています。日本以上に流行している地域もたくさんあるわけですが、そうした国々からの帰国者に対しては、狂牛病のような制限がなくてよいのでしょうか。そもそも、以前からたびたび触れているように、不活化の話をきちんと進めてほしいものですね。


④体外受精など、二重チェックの徹底を 学会、指針改定
(2009年12月14日 日経新聞)

ようやくというか、当然というか、日本産婦人科学会の生殖補助医療に関する会告(「生殖補助医療実施医療機関の登録と報告に関する見解」)に改定が加わるようです。これについてもいろいろこれまでにも考えてきましたが(責任の所在、報道のあり方から、裁判やADR等についてetc・・・)、これで事態がどれだけ改善されるのか、その後の観察・報告についても広く明らかにしていってもらいたいところです。また、今回の指針改定は、2重チェックの徹底をメインとし、安全管理委員会の設置を義務付ける、といった内容が主ですが、別途、もっと作業にかかわる具体的な指導があればとも思います。たとえば一般的に考えても、器具その他の物の配置や、作業の流れ・動線といったものの見直し・改善も、ミスの回避には有効なはずです。そのあたりについての医療機関に対する具体的なチェックや指導は、実質的な事故回避につながるのではないでしょうか。


⑤奇跡の医療革命!お母さんたちが立ち上がった!
(経済ドキュメンタリードラマ「ルビコンの決断」 テレビ東京)

これはニュース報道ではありませんが・・・。あの「県立柏原病院の小児科を守る会」の活動が、テレビドラマ化されるようです。そういう形で広い層の人々に活動が伝わることは、大事なことですよね。もちろん、それが各個人のアクションに直結するかというと、そう簡単ではありませんが、もしもだ立ち上がる人が現れたときに、こうした成功例が頭にあれば、賛同や参加を促すことになるのではないでしょうか。(ブーメラン効果と逆の効果もあるかな、と。押し付けがましさもないですしね。)期待したいと思います。


以上、1つ1つの報道等は大きくはありませんが、じっくり見ていくと、日々、さまざまな出来事がおきたり、逆にほうっておかれているものですね。そしてそれ以上に、記事にならない出来事がおきたり、逆にほうっておかれたりしているということも忘れてはいけないな、と改めて思うのでした。とくに大手新聞等で記事になる・ならないは、その重要性といつもイコールではありません。そして取り上げられても、そこには「編集」という作業が介在し、ときにそれが“トリック”となりうることも念頭に置きつつ、受け止めねばならないんですよね。

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