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ニュース〜医療の今がわかる

医療基本法をめざす人々

海辺
「私は普通の主婦だが、たまたま勉強せざるを得ない状況に置かれて色々と勉強した。そうしてみると知らなかったことがたくさん分かって、だからこそ普通の人は絶対にそういうことを知らないということが分かる。負担を増やすという話になると、新聞やテレビでは、すぐにその前に無駄を省けという話になって、そういうのが出てくると皆払いたくないからそうだそうだとなるけれど、しかし日本は既に限界近くまで小さな政府になっていて、国民負担は実は大きくない。そんなこと普通の主婦をしていると全く知らなくて、もう少し贅沢がしたいとか、子供の教育費が大変だとか、そんなことを考えているので、負担してくれと言われてもイヤだという話になる。そういうことをもっと根気よくアピールしていかないといけないと思う。ただ、そういうのは政府の側ももっと上手にアピールするべきなんじゃないか。普通の主婦の私がいきなり街頭に立って訴えることとは違うような気がする」

埴岡
「先進的な主婦も街頭に立つのは違和感がある、政治家もポピュリズムで負担増の話はしたがらない、行政自らがそういう手法を使うのは禁じ手、マスコミもステレオタイプということになると皆すくんでいる状態で、基本法の世界まで行ってしまえば楽なのにそこの前の壁を越えられない。突破口はどの辺りにあるんだろう」

伊藤
「医療費の総額抑制を見直しましょうというのは、ある程度コンセンサスになっていると思う。ただ誰がどう負担するのかというと話が止まる。私は基本的に保険料を上げていくしかないと思っている。ただ、そのことを了解してもらうには、その決定プロセスの中に国民に入っていただいて、現実的な負担と給付のいくつかの選択肢を示して、それを国民に問うていく、それを政党がマニフェストに入れて信を問うていくという作業が欠かせないと思う。負担増を訴えると選挙で負けるから訴えないというビヘイビアでは、行き詰まると思う」

埴岡
「マニフェストに医療基本法と1行入れてもらえないか」

鈴木
「努力はしてみる。法の名を何と呼ぶかは、また別にして。もちろん問題意識は共有している。ただ伊藤さんが言うほど実は簡単な話じゃない。私は、麻生総理が2200億円削減をやめると思っていた。しかし、先日堅持するんだと言った。政策決定の過程より何より決定的に世論醸成が大事。実は自民、公明、民主の各党は、相当の頻度で世論調査をやっている。やり過ぎという感すらあるんだが、言ってみて世論を見て軌道修正しているのが現実。医療費増は世論の支持を得ていない」

埴岡
「我々の世論形成能力が問われていると」

鈴木
「それも確かにそうだが、話はもっと大きい。1億2500万人の世論形成って本当に大変」

埴岡
「財政確保の面で、削るところから生み出すのか、増やすのか、若干の差異はあったと思うが、ここでは深入りしない。今後の財政論の議論の仕方について」

浜四津
「安定した財源確保の必要性は言うまでもないことで、その費用は国民負担で賄われているのだから、負担と給付の関係について十分に納得してもらう必要がある。国会議員がその説明責任を十分に果たしているかというと、たしかに負担増に拒否的反応が強くて、特に総選挙前では議論が止まってしまう。そうは言っても政治の働きは非常に重要であり、特に消費税の問題と関連付ければ、医療にどれだけのお金が必要なのかを中期的に示していく必要がある。段階的に進めていくしかない」

鈴木
「患者負担増は限界に来ている。従って税投入を増やすしかない。それから高所得者の保険料負担を増やすことも必要ではないか。特に国民健康保険の所得区分で上の方にもっとランクを増やすというのはあってしかるべきだろうということで、そこは研究中だ。税に関しては1.9兆円増やすということで党内のコンセンサスは得ている。財源に関しては繰り返しになるが、先ほどの無駄遣いの話で、小泉政権で減ったとはいえ公共事業費率が依然として対GDP比5.0%ある。ドイツは1%ちょっと。その差の3%分を医療と年金と教育に回せということを我々は主張している」

埴岡
「医療基本法については」

鈴木
「国会の中のプロセスについては、いろいろある。がん対策基本法のようなパターンもあるだろうし、最初から自公民フレームで各党あえて法案を出さずに一発で通してしまうのもある。政争の具にしないよう、早期に実現するよう最もよい戦術を考えたい」

埴岡
「戦術も大事だが内容も大事だ」

浜四津
「党内のコンセンサスを得ることは短期にできると思う。ネックになるのは他党との違いをどう調整するか。具体的には自民党との法案の内容の調整が時間がかかるかもしれない。民主党とは、これまでも共通する法案内容が多かったのだけれど、自民党の中はかなり多様なのでそれを一致させて調整させるのが大変」

伊藤
「選挙の時期も視野に入れて、あり方協議会としても他の団体とも協力しながら与野党のキーパーソンにお願いに参りたい」

海辺
「協議会としても、もっともっと勉強して様々な立場の意見を伺って、医療基本法というものをもっと立体的に捉えられるようにしたい。昭和47年に野党3党が共同提案された法案の内容は実にすばらしく、今回の医療基本法がそれより後戻りすることのないようにしたい」

海辺氏の感性にはとても共感した。こういった感性を持ち続けて、医療基本法制定を、国民的議論を巻き起こすための手段と捉えて協議会が活動するならば相当に面白いことが期待できると思う。しかし目的と捉えてしまうと、作ったはいいけど何も変わらなかったということになりかねないと思う。

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