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ニュース〜医療の今がわかる

新型インフル 蔓延したら白血病治療止まる


――まったくその通りですね。

 この話は、医療の危機管理の問題として一般化もできると思います。今年初め、骨髄移植に欠かせないフィルターがメーカーの事情で欠品するかもしれないと大騒ぎになりました。関係者がかなり無理をして、米国で既に承認されている別の会社のほぼ同効品を1カ月あまりの間に迅速承認して輸入し、なんとか骨髄移植中断は免れました。

 かなりの無理をした一方で、あくまで通常時と同じ枠組みでの対応でした。次回同じような問題が起きた時にどう緊急対応するか、という問題を避けて通ってしまいました。今にして思えば、こういう時はどうするんだという危機管理としての議論をしておいたら、インフルエンザでビックリ仰天する前に動けていたのでないかと残念に思います。多くの人の命が救われるような医薬品が、日本で承認されていないために使用できないとか、採算が取れないために日本で手に入らないとか、そういう事態が突発的に起きた時にどうするかです。

 通常時、医薬品の承認は安全性を担保するため科学的かつ慎重に審査を行った上でなされます。また、医薬品の販売や供給については経済的な事情も多くを左右します。緊急に承認を与えれば、安全性の検討がおろそかになるかもしれません。また、メーカーに強制的に医薬品の供給をさせれば、経済合理性を無視することになります。一方でそのような緊急措置で患者を救える可能性があります。

 緊急時には、このメリットとデメリットを天秤にかけて判断する必要があると思います。科学と社会のバランスを取ると言い換えてもよいかもしれません。その判断を一握りの専門家や行政だけに求めるのは酷です。

 実は米FDAでは新型インフルエンザに関して、緊急時には必要に応じて未承認・未認可の医薬品の使用を許可することができるようになっています。実際、新型インフルエンザの感染拡大が認められてから、特定のインフルエンザ医薬品や診断キットの緊急使用を許可しました。

――今、科学と社会のバランスを取るというお話をされましたけど、素人は、医療者がバランスを取ってくれるものだと信じ込んでいます。

 実際には科学に偏っています。社会的コンセンサスを得るように行動をする機会も、社会的な判断をする機会も多くありません。というよりも、そういう振る舞いをしようとすると異端と見なされます。科学、特に急速に発達した分子生物学という分野が大きいのですが、それをやっていれば、よい薬や治療法が出てきて、治療成績も上がって、患者さんのためになった、という成功体験があるからだと思います。でも、社会の事情も変化して、科学以外のアプローチも考えないといけない転換期に来ていると思います。

 職業人としての医師が最大の目的とすべきは患者さんの利益であり、そう考えれば、手法を科学に限らなければならない理由など、どこにもないのですよね。何アホなこと言ってるんだと思う人も多いかもしれませんけど。

 論文を書いているのは、そうすることによって、一般の医療者にも関心を持ってもらえるかなと思っているからです。

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