新型インフル 蔓延したら白血病治療止まる
新型インフルエンザが蔓延すると間違いなく生命の危機に瀕する人たちがいると分かってきた。白血病治療に欠かせない輸血が欠乏するからだ。東京大学医科学研究所の成松宏人客員研究員(血液内科医)は、第二波に襲われる前に注意喚起しておくべきと考え、現在学術論文の投稿を準備しているという。(川口恭)
――新型インフルエンザと白血病の治療と、どういう関係でしょうか。
朝日新聞の5月23日付報道によると、5月16日から22日にかけて兵庫県の赤十字血液センターでは、献血者数が計画のわずか6割程度しか確保できなかったそうです。関西での新型インフルエンザの感染の拡大により、外出を控える人が増え、献血が減ったことが原因と分析されていました。ほとんどの血液内科医が、血小板は大丈夫だったのかと思ったはずです。
――なぜ血小板の心配をするんですか。
血小板は、白血病の治療に欠かせないうえに保存期間が4日しかないのです。わずか数日、献血者が減っただけで足りなくなりますし、よその地域から融通するのも難しいです。ちなみに赤血球は保存期間が21日あります。
――血小板を何に使うのですか。
強い化学療法を行うと血液中の成分が失われます。血小板が過度に失われると脳や消化管から出血して生命の危機に至るので、必要に応じて補充する必要があります。このように、もっぱら使うのは白血病治療の際ですが、必要なケースは限られますが、血小板が減少するような重症感染症や人工心肺を使うような大きな手術の際にも使うのではないでしょうか。
――その時期の兵庫県は大丈夫だったんでしょうか。
問題が起きたという話は聞いていません。ただ、厚生労働省がこの時に出した通達の内容を知って驚きました。「最低限の使い方にしなさい」というものでした。私もずっと臨床の現場にいましたけれど、血小板というのは元々貴重なので、はじめから最低限にしか使っていません。ナンセンスな通達です。
――そんなに貴重なんですか。
成分献血してもらわないといけないので1時間くらいかかります。全血献血なら10分程度で済みます。献血してくれる人の多くが全血を選びます。
――全血から分離できないんですか。
成分献血の場合は何リットルもの血液から分離します。全血は多くて400㍉リットルですから、分離したとしても少ししか取れません。
――なるほど、どれだけ大変なことか段々分かってきました。
今回は関西の一部地域だけの話だったので問題になりませんでしたが、広範囲に新型インフルエンザが蔓延したら、白血病の化学療法や造血幹細胞移植はできなくなります。1カ月あたり数百人の単位で、治療を受けられずに亡くなる人が出ると思われます。