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「出来高払い」と「包括払い」の微妙な関係 ─ 中医協(6月24日)

■ 医療サービスを左右する経営判断
 

 医療サービスが他の産業と決定的に異なるのは、サービス提供者と受領者との間にある"情報格差"(情報の非対称性)。例えば、パソコンを購入する場合にはどのような機種やデザインがいいかを購入者が考え、店員の話などを参考にしながら自分で決める。「私的自治の原則」が支配する私的な契約関係では、「売り手」と「買い手」が同じ情報を持つこと(情報の対称性)を前提とする(民法95条、錯誤無効等)。

 ところが、医療では、どのような治療が適切かを患者は分からないため、医師への"白紙委任"となる場合もある。しかし、どのような治療が本当に適切か、実は医師にも分からない。例えば、同じ薬を飲んでも病気が快方に向かっている時に服用すれば「その薬が効いた」とは言い切れない。また、Aという病気には効くけれどBという病気との相性が悪く、思わぬ副作用を起こしてしまう場合もある。

 これは手術も同じ。患者の状態を"神様"のように把握できるわけではないので、「医療には限界がある」といわれる。医師によって手技や考え方、倫理感が違うので、すべての患者に同じ医療サービスが提供されるとは限らない。しかし、患者よりも医療に関する経験や知識で上回っていることが多いので、医師には大きな裁量権が与えられている。

 このような医師の診療方針を大きく左右するものがある。それは、「どちらの治療方法が増収になるか」という経営判断。医療サービスは、患者の病状判断だけで診療方針が決まるわけではないことが指摘されている。

 例えば、ある病気で手術して入院したら1日5万円という価格を設定したら、やらなくてもいい医療サービスをできるだけ控え、必要なサービスだけを提供するという判断が働く。つまり、包括(定額)払いは、「過少医療」の危険をはらむ。

 逆に、「出来高払い」では不必要でない限り、できるだけ多くの医療サービスを提供する傾向が生まれ、「金儲けのために"薬漬け"にする」などと批判されるケースも起こり得る。つまり、出来高払いは「過剰医療」の危険がある。

 現在、病院の入院医療には包括払いが導入されている。脳梗塞や心筋梗塞など生命にかかわる病気で入院した患者を治療する「急性期病院」のうち、一定の規模がある病院ならば入院医療費の定額払い(DPC)を導入している。

 DPC病院は、入院期間を短くして効率の良い医療を提供すればするほど高い診療報酬を受け取ることができる。このため、日医は「DPCには"粗診粗療"の危険がある」と反対しているが、その主張の根底には、「出来高払いを守りたい」という判断があるのだろう。

 こうした背景から、来年4月の診療報酬改定に向けた議論では、「出来高払い」と「包括払い」(DPC)との関係をどのように整理するかが最重要テーマになる。6月24日の中医協は、その扉を叩いた。

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