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国立がんセンター麻酔科改革が地域に波及する-宮下徹也氏、後藤隆久氏インタビュー

 
■病院機能を底上げする麻酔科医の重要性
宮下:麻酔科医に対するリスペクトがない組織だとそういうことにもなると思います。麻酔科医になって7、8年目ぐらいまでは麻酔科医として「早くて綺麗で覚めがいい麻酔」といったところを求められ、自身も目指していくと思います。ただ、20年以上のキャリアのある麻酔科医になれば、患者の全身を管理するスペシャリストになってきますので、「あの麻酔科医が無理と言うなら手術をやめておこう」と、チームの一員として見られるような体制が求められると思います。キャリアある麻酔科医に、若手に対する態度と同じように接してこられると気持が萎えてしまうというところはあると思います。
 
後藤:麻酔科医は「安全」を保つことが当たり前の仕事であるため数字で表すのは難しいですが、麻酔科医の体制がしっかりしている病院は医療の質が良く、患者さんにもメリットがある病院だと思います。たとえば、手術をするのは外科医ですが、手術中に侵襲の加わった患者の全身管理をするのは麻酔科医です。手術患者の安全性を確保するためには麻酔科専門医が必要です。手術中に予想外の出血をした、あるいは肺塞栓になったというような、いざという時に病院が試されます。麻酔科医の存在は病院機能を上げますから、管理者にその辺りの意識があると違ってきます。
 
 
■国立がんセンター改革の先に見えるもの
--最後にお伺いさせてください。なぜ宮下先生は体調を崩すほどになりながら、この国立がんセンターで頑張ることができたのですか。
 
宮下:後藤教授や山田教授に「行け」と言われて断れるわけがないと思います(笑)。それはさておき、私はニューヨークのコロンビア大学に留学しましたが、その時に「国益」ということについて考えることがありました。医師は「目の前の患者のために」という言葉はよく使いますが、「国益」のためにできることとは何だろうと。当時は医師をやめてもいいから何かできることはないか、例えば行政なら制度を作る側に行きたいと思い、家族とも話し合ったりしました。ちょうどその頃に、この国立がんセンターの話が来たのです。これは間違いなく大きな「国益」につながる仕事だと思いました。私自身は、大学には留学にも出してもらったという恩もあり、麻酔科医としてのキャリアも十分に積みました。失って困るものは何もありません。他の選択肢はないと思いましたので引き受けました。ここでの仕事を終えて、自分の代わりがきくようになったら出ていこうというぐらいのつもりです。今時点では、まだまだこの場所を良くするために考えられることはたくさんありますし、そればかり考えてしまうのですけどね。
 
後藤:「国益」というのはまさしくそうで、愛国心を失ったら終わりではないかなと思います。今の医療は社会保障という公的なものによって成り立っています。適正に利潤を追求していくのはいいですが、決してお金だけで動いてはいけない。麻酔科医が節度を持った集団であると示していくことが必要だと思うのです。こうした動きは地域の基幹病院にも影響していくと思います。私たち現場からモデルを示していくことで、医療が変わっていくのではないかと思います。
 
 
 
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