何か足りない、「ドラッグ・ラグ」の議論
海外で使われている薬が国内で使用できない「ドラッグ・ラグ」の解消に向け、厚生労働省は8月25日の中医協で、薬事法上の承認がない薬でも健康保険での支払いを認める"近道"を提案し、全会一致で了承されたが、何かが足りない。(新井裕充)
「抗がん剤など未承認薬の輸入は、安心・確実な○○まで」─。
インターネット上では、抗がん剤だけでなく違法な薬物も個人で輸入できるサイトがひしめいている。日本で正式に承認されていない薬でも、個人の判断で気軽に使用できる時代。
しかし、費用はもちろん全額自己負担。重篤な副作用など、何か健康に異常があっても自己責任。「それでもよければどうぞ」という話になっている。
つまり、「お金と度胸があれば......」という世界。医師に相談する患者もいるかもしれない。しかし、100%完璧な医療はない。医師だって分からない。高額な拠出をして、なおかつ治療効果がある場合、あるいは「ほんの数か月延命できた」という場合もあるかもしれない。生き方、死に方は人それぞれ。いろいろな考え方があるだろう。
これに対し、国民皆保険制度の下で、「病院に10年間行ったことがない」という健康な人々などから集めた保険料や税金で治療費の一部が支払われる場合は別。
国がきちんとルールを決めて、副作用被害があった場合の救済制度も整備した上で、「これは保険で支払ってもいいでしょう」という手続きを経る。日本はこの手続きがガチガチなのか、役人が悪いのか、製薬企業が儲け主義なのか、他の国に比べて遅い「ドラッグ・ラグ」が問題になっている。
前置きが長くなった。今回、中医協で承認されたドラッグ・ラグ解消のための"近道"は、「薬事承認=保険適用」という現行ルールを緩和して、正式な薬事承認がなくても厚労省の検討会議で事前評価を終えれば保険適用を認めるもの。 すでにテレビや新聞などで報道されており、この日の中医協にもテレビカメラの頭撮りが入った。
今回、中医協で承認された新しい枠組みでやれば、従来よりも9か月程度の短縮が図られるらしい。素晴らしいことではないか。
今まで自己負担だった治療費が保険で支払われるようになれば、患者にとって良い話。製薬企業の売上もアップするかもしれない。高額な薬剤をたくさん使用する医療機関にとっては収益増につながるかもしれない。良いことばかり......なのだろうか?
【目次】
P2 → 未承認薬をどうするか
P3 → 医療費は増えるか
P4 → 医師の裁量権を拡大するか
P5 → 患者に不利益はないか
P6 → 副作用被害を防止、救済できるか
P7 → ドラッグ・ラグは解消するか