何か足りない、「ドラッグ・ラグ」の議論
■ 患者に不利益はないか
「55年通知」の裏側にある問題として、「医者もいろいろ」という意見が一般国民の間にあることは否定できない。近時、「インフォームド・コンセント」という言葉をよく耳にするが、医療に精通していない一般国民は医師の説明を鵜呑みにするケースもあると聞く。
デパートの商品説明と違って、医療の場合には「とりあえず説明は聴いた。あとはお任せ」という場合もある。詳しいことは患者には分からない。
しかし、実は医師にも分からないらしい。池上直己・慶應義塾大医学部医療政策・管理学教授は「医療問題」(日経新聞社)という著書の中で、「経験と勘で決める医療サービス」と指摘している。
確かに、医師はしばしば「エビデンス」とか、「科学的証明」という言葉を好んで使うが、医療事故の問題になると手のひらを返して「誰にも分からない」「100%はない」と言い切る。
当該治療は本当に効果があるのか、患者も医師も完全には分からない中で、医師の裁量にどこまで委ねるか。
一方、国がハシの上げ下げまで指図して現場に介入し、窮屈で硬直化した医療になっていないか。そうした問題についても、少し議論があっていいだろう。
医療は、結果良ければすべて良し。患者も、「お金を掛けたかいがあった」と喜べる。しかし、「ドブに捨てた」ということもあり得る。いや、ドブに捨てるだけならいいが......。
【目次】
P2 → 未承認薬をどうするか
P3 → 医療費は増えるか
P4 → 医師の裁量権を拡大するか
P5 → 患者に不利益はないか
P6 → 副作用被害を防止、救済できるか
P7 → ドラッグ・ラグは解消するか