村重直子の眼16・近藤達也PMDA理事長(下)
近藤
「私もそう思いますよ。だから行政が一方的にこれ以上出さないというのはダメですよね」
村重
「情報を出さないのは誰のためですか?ってことですね。それによって得をするのは役人ですよね、国民じゃありませんよね。国民に知らせるべきだと思いますけどね」
近藤
「役人は知らせない方がやりやすいからかもしれないけれど、そうではなく、同じ市民だということ。だからお互いに人格を尊重しながら、同じ平地で議論しあうということ、それがレギュラトリーサイエンスの心だということを、理解してもらえるとありがたい。レギュラトリーサイエンスという言葉だけが広まっても意味がない。同時に、世界共通の学問だから、これがなかなか難しいのですよ。例えば、アカデミックな科学は非常に理路整然と話を進めていけると思うのですが、これがレギュラトリーサイエンスになると、次元の違うものを比べてバランスを取るものなので、本来比べることのできないものを比べるわけですから、それでもバランスを取っていかなきゃいけない。とても難しい。科学としては、極めて東洋的ですよね」
村重
「ああ、なるほど」
近藤
「レギュラトリーサイエンスが日本発の学問だというのは、まさにそこですよね。西洋人からはこういう概念が出てこない。禅の世界に近いところもありますし、日本人じゃないとできないのでしょうね。実を言うと、こんなに広まるとは思っていませんでした。FDAのハンブルグ長官も、就任後、レギュラトリーサイエンスをFDAの運営の基本として位置づけられておられ、このように日本発の学問として世界中で広めつつあります。また、今年の2月にも、FDAの前長官のエッシェンバッハさんが、レギュラトリーサイエンスについての話を聴いて、納得されていました。この混迷の世界の中、解決する一つの手段として、これはどんどん進めるべき学問ですね。ICHで作成している基準などもほとんどレギュラトリーサイエンスに当てはまりますよね。それから、先程のお話の情報公開をどこまでやるのかという議論も。こういう議論は、カオスになっているものとか、訳分からなくなって混乱しているものがほとんどで、レギュラトリーサイエンスとは、そのような状態の問題をどう解きほぐして、分解して、それを正しく導くかっていう学問なのです。皆が困っていることや、目をつぶってあきらめていることを分解していくわけです。先生たちがおっしゃっているようなことを、分解して誰もが納得するような方法に解決していかないといけない。ハンブルグ長官さんは、レギュラトリーサイエンスをどちらかというとトランスレーショナルサイエンスを社会へ具現化する科学として捉えられておられますが、我々は、レギュラトリーサイエンスはハーモナイズ、コンプライアンスの科学と考えています。情報公開なんて、まさにコンプライアンスの科学だと思いませんか。どこまでを公開し、どこまでは守秘すべき事項なのか、これはバランスをどこに置くかではないのでしょうか。これがまさにレギュラトリーサイエンスです。それを議論して決めていく。しかもそれが日進月歩ですから。今はここまでだけど来年はここまでとかですね。日々変化することを、皆さんに理解いただくことにも本当に時間がかかると思います」
村重
「では、情報公開と自由な議論をもっと活発にということですか」
近藤
「それが原則ですよね。自由な議論をしなければアカデミアにならない。専制国家ではなくアカデミーな国家なのですから。それを皆で、賢い人どうしで議論するのです。風聞で動くのではなくて、ディスカッションして動く。だから先生のデータに基づいたお話が非常にいいのですよ」
村重
「ああ、そうかもしれませんね。考え方は似ているかもしれません」