中医協委員、大阪で現場医師らと診療報酬を議論
⑧新薬創出加算「継続するなら長期収載品の追加引き下げするかどうか」
司会
では次、ファルメディコ株式会社の薬剤師さんの越川法子さんから新薬創出加算について、先ほど議論のあったところですのでいろいろあると思いますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。
越川
ファルメディコ株式会社で事業部長をしております薬剤師の越川と申します。よろしくお願いいたします。3つお尋ねしたいことがございます。一つ目は新薬創出加算のことなんですけども、このままでいくと恒久化されてしまうのでしょうかということです。私は恒久化されてしまうことについては慎重論を持っております。と言いますのもこの加算が導入されてすぐ、薬価が据え置かれたにもかかわらず、仕入れ値が上がるという事態がありました。またもともとアンメット・メディカル・ニーズ(Unmet Medical Needs;未だ満たされていない、有効な治療方法がない医療ニーズ)やドラッグ・ラグの解消という目的で創設された加算と聞いておりますが、これらの薬に対しての開発に本当に光が当たっているのか、見えてきません。見えてこない以上はやはり恒久化に急ぐのではなく、もう少し試行的実施で様子を見るべきではないかという意見を持っております。
*薬価についての詳細はこちらを参照。
*新薬創出加算・・・薬価維持特例に相当する。革新的な新薬の創出や適応外薬の開発等を目的に、後発品のない新薬で値引率の小さいものに一定率までの加算を行う。これによって、実質的に薬価が維持される。加算の条件として、厚生労働省が開発要請する適応外薬の開発などを実行すること。
*簡単に言うと、毎回の改定で引き下げられる薬価を維持するために創設された「新薬創出加算」だが、要件となっている薬の開発などが進んでいるように見えないという指摘。
2点目は市場拡大再算定についてなんですけども、新薬創出加算制度の期待される効果を最大限に活用するためにはこの算定の見直しは重要だと思いますが、見直していただくならばできる限り厳しく見直していただきたい、つまり適正価格で売ってほしいということです。当初日本で市場規模を大きく上回った時はちゃんと補正してほしいと思いますし、根本的に市場が大きく上回るということ自体不思議でなりません。ほぼ毎回、市場が大きく上回るということは故意的に最初の推論を小さくしているのではないかと疑ってしまいます。
3点目は後発品についてです。薬剤師ですので先発品と後発品が生物学的同等性があるとは言い切れないという自分の意見を持っております。ですので市場原理主義、もしくは医薬品の費用の削減という観点から後発品の安いものを進めるというのであるならば、先ほど安達先生がおっしゃたように先発品より後発品の方が値段が高くなるものもございますので、安いものを進めた時に加算が付くべきで、後発品加算という体制を不思議に思っております。それから一つの先発品に対して後発品が30数目出てくることにも疑問を感じております。添付文書をひも解いてみますと、AUC(血中濃度-時間曲線下面積;体内に取り込まれた薬物の量を示す指標)やCmax(薬物投与後の最高血中濃度)がゼロテン二桁までが全く同じ、30数種類を分けてみると4つのグループに分かれる。その4つのグループのグループ内の薬価が同じかというと同じではない。それについてどのようにお考えなのか教えて頂きたくともいます。
司会
邉見先生の方からお願いします。
邉見
結論から言えば、三つともおっしゃる通りと思いますが、それでは身もふたもないもないので少しだけ私の意見を述べたいと思います。まず新薬創出加算ですけども、おっしゃるように新薬を作ると、先ほど嘉山委員が話されたように日本はドラッグラグとかドラッグギャップとこの二つがあるので、2万の化学物質があったら一つしか今市場に上市されないそうですね。残りの1万9999の研究費を回収するためにですね、どんどん下がっていくのはいけないということで下がった分は加算しようということで未承認薬を創出するのと、新薬を作るというのと。実際にこの間検証報告がありまして、ほとんどのところが(未承認薬・適応外薬への対応や新薬開発などを)やってるんですが、まだどこまでいってるという結果が出ていないんですね。私はトライアルでこのまま1,2年いくというのもいいと思います。3つあると思います。廃止してしまう、恒久化する、トライアル、私はトライアルが一番いいんじゃないかと思いますが。私の後任の人が新しく入ってくるのか、横滑りでこの中からどなたが入るか分かりませんが、薬価部会で決まります。
それから二つ目の市場拡大再算定は私はこの間の薬価部会でも申し上げましたけれども、たとえばAという定価の物がX売れるということで総額AXになったものがですね、10X売れたと。10倍。そうすれば本当であればAが10分のAであってよかったんじゃないかというのがご意見だと思いますが、私もそうだと思っています。ところが今の最大限下げられるのは25%、これは決まってます。これはある程度仕方ないかなと。製薬会社もそれだけいいものを作ったということでもありますし、せっかくたくさん売れてるのに10分の1ではやる気がなくなる恐れもあるので、ただ25%ぐらいは認めてほしいと思うんですが。製薬業界はその25%もやめろと。それは保険者の一号側の方も医療費は薬だけのためにあるのではない、技術料やほかのこともあるので与しないということでこれはできたら今のままの制度、あるいはもう少し厳しい運用もあっていいのではないかと思います。
3つ目についてはおっしゃる通りです。「アムロジン」(降圧剤)なんか40ぐらい出たと思いますけど、ほとんど同じでどれを選ぶか、進まない原因の一つに在庫をどうしようかという問題もありますので、おっしゃる通りだと思います。最後に一つ質問とは無関係に申し上げますと、薬価算定組織というのがありまして、そこで値段を決めてきます。専門委員ばかりで決めてくるんですね、それを中医協で認めるんです。診療材料もそうです。安達委員と嘉山委員がエビデンスがないということで参考資料が出ないので材料を二つ保留しました。私の6年の経験で、下部組織から上がってきたもので採用されないで保留になったのは初めてです。結局次の会議で書類ができましたので認められることになりました。薬も初めの類似薬効方式とか原価計算方式とか営業利益とか、どういうところが適正化が我々にはわからないところで決まってしまってるんですね。初めが高すぎるんではないかと私はずっと思ってるんですけども。二桁増収増益がずっと続いている業界は少ないんじゃないかと思います。以上です。
*邉見氏も普段なかなか言わないようなところまで発言している。
安達
新薬創出加算はアンメット・メディカルの解消に向けた結果が見えないと仰るんですけども、中医協資料を見て頂いても確かにこの間、開発要請がたくさんあってそれに応じた会社がたくさんあって、今進行していることは事実です。過去に比べれば新薬創出の努力は製薬業界も始めているということです。問題の一つは、新薬創出加算の対象となる薬剤を売っていながら次のアンメットの開発の要請も一件も受けていないし治験にも一件も入っていない。そういう製薬企業が複数あります。それをどう考えるかということです。将来の問題ですから、業界全体で受けているんですと言うのが薬業界のお答えです。それならば逆に言うと既収載品で医療的に必要なんだけど採算割れするものが出てくる。それも業界全体で見てくださいよと。我々として言えばそういうことだろうと思います。それだけは個別で救ってください、創薬加算は絶対受けて頂きますってそんな虫のいい話は基本的にはないだろうと。実際の改定作業で言えば前回新薬創出加算を認めるにあたってほぼ財政中立的にするために既収載品の追加引下げを行いました。およそ600億円です。今回も(新薬創出加算を)もし継続するのならばその作業は同じようにやるかというのが一つの問題。前回はあろうことか規定はないという言い方でこの600億円は国庫返納されました。だから実際には0.19じゃなくて0.03%、国家財源から言えばそうだろうと。だけどこの薬剤費には多少といえども薬価差益がまだR幅2%とか残っていて、そこの中で値段を下げて財政中立にしたんだから600億円は当然改定原資になるべきだったということも考えると、そういうことをやらせないでなおかつ追加引き下げをやるべきかどうか。技術的にはここのところが問題だろうと思います。
拡大再算定は厚労省に私も申し上げておりますが、市場規模が業者申請型であります。その申請された規模がそもそも正しいのかということをちらっと見て、まあ見てると言うんですけど、「はいそうですか」でやるのでこんなことになるんで、本当に適応も拡大しないのに市場規模が変わるなんてこと有り得ないわけですから。ということは最初の申請の市場規模にご指摘のような恣意性があるのかと疑われても仕方がないのでそこのところは厚労省は独自にチェックする姿勢を作らないといけないと思います。
後発医薬品が先発医薬品とは全く同等にならない。これはご指摘の通りです。原因は原末バルブの純度の違いです。先発品は99.9%の原末バルク純度でやってます。後発品はおよそ90%purityだと思います。そうでなければあれだけの安い値段で採算は取れません。どういうことになるのか。有効成分だけで言えば1.1倍量を一錠に入れておけばそれで大体いけます、ということになるわけです。それで生物学的利用性や血中濃度を測って合致したものが承認されているというのが状況です。だけど10%、生物学的効果はないけれども構造的には極めて似て非なるものがある。薬効はないんだけど構造的に極めて似たものが10%入ることになる。それは何に影響するのか、一つは消化管からの吸収に影響するでしょう、場合によったら吸収された後の肝臓を中心とする生体内代謝にも影響するかもしれない。ですから日本臨床薬理学界には同等ではないという報告が後を絶たない。当然の結果です。ですからそこのところに限界はある。しかしながらずいぶん品質的には良くなったというのが事実で、私は中医協の議事録を見ますと、乱暴かもしれませんがということは断ったと思いますが「後発医薬品が医療経済に寄与するのは価格が安くて効果が同じということでしょう。だったら入札をして、条件満たすものの中で入札をして安いものの中から5つを選ぶ、それでいいんじゃないか」と申し上げました。これまた大阪の澤井社長(日本ジェネリック製薬協会会長、沢井製薬代表取締役会長の澤井弘行氏)から刺されるかもしれない話ですが(会場笑)、そういうことを考えなければいけないほど疑問が多過ぎる。それは確かに間違いない。
*水を得た魚のように力強く語った安達氏。勝負あったかと感じられた瞬間。ちなみにこの会議では専門的な内容を話しているときも寝ているような参加者はほとんど見られず、皆真剣に聞いている様子だった。
司会
ありがとうございます。これはまだまだ議論が尽きないですが、時間的なことがありますのでこれでいったん中断させていただきたいと思います。