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米国の食の指針、良い点と悪い点~食べ物と添加物と健康㊸

大西睦子 おおにし・むつこ●医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて基礎研究に従事。
 昨年2月、5年ごとに更新される「米国人のための食生活ガイドライン(DGAs)」草案が発表されました。この草案でコレステロールの摂取制限が撤廃されたことは、日本でもニュースになりましたよね。

 このガイドライン、年を越した1月7日にようやく最終決定版が発表されました。議会の公聴会や、約3万にも及ぶパブリックコメントを含む多くの公開討論を経てのことです。

 肥満、糖尿病や心臓病の頻度が高い米国では、何を食べるべきで、何を食べるべきでないかという問題に、多くの人が高い関心を持っています。そのため、毎日の健康的な食品の選択のために、新しいガイドライン発表に大きな期待が寄せられていました。個人の食生活だけでなく、学校給食のメニュー、食品の栄養表示、栄養士の推奨事項や公共の栄養プログラムなどにも大きな影響を及ぼすもので、社会の注目度が非常に高いのです。

 このように大勢の人が期待を込めて待っていた最終決定版ですが、発表直後から多くの批判の声が上がりました。ニューヨークタイムズ紙は、政治的意図や食品産業のロビー活動の影響が入り過ぎていて、米国民の健康を助けないだろうとまで酷評しました。

 実は、草案から最終決定版になるまでに、多くの変更が加えられたのです。

問題点は

 DGAs検討委員会のメンバーである、ハーバード大学のフランク・フー教授は、同大学の学内ニュースで、最終決定版の問題点として、加工肉や糖入り飲料の摂取制限が消えたことを指摘しています。

 加工肉には、塩分や飽和脂肪酸やリン酸が含まれるのに、正式版ではヘルシーな食生活に含めて構わないことになりました。これに対してフー教授は、慢性疾患の予防のために、赤身肉と加工肉の消費を減らすという検討委員会の報告と矛盾していると述べています。

 栄養疫学研究の第一人者であるハーバード大学のウォルター・ウィレット教授も、ボストングローブ紙に対し「多くの人がガイドラインに混乱しています。慢性疾患を防ぐため、ソーダのような糖入り飲料や、赤身肉・加工肉の摂取を減らす必要があることは科学的根拠に基づいており明白です」とコメントしています。

 ですから、これらに関してはガイドラインに制限が書いてなくても、控えめを心掛けた方が無難です。

改善点も

 フー教授は一方で、今回のDGAsには、注目すべき改善点もあると述べています。

 まず、「1日の摂取カロリーのうち、食品に添加された糖分のカロリーは10%以下」という糖分摂取の上限が設定されました。添加された糖分とは、食材に元から含まれる糖分を考慮に入れず、加工する時に外から加える糖分を指します。

 また、総脂肪摂取量の上限が削除され、代わりに「1日の摂取カロリーのうち飽和脂肪酸からのカロリーは10%以下」という上限が設定された一方、不飽和脂肪酸、特に多価不飽和脂肪酸の摂取は、むしろ推奨されるようになりました。

 さらに地中海式やベジタリアンのように健康的な食事パターンを推奨するようになりました。これは食文化や好みに応じてアレンジして構わないので、より守りやすくなりました。私たちで言えば、変に欧米風のものを食べなくても、健康的な食材の和食で良いのです。

 1日3~5カップ(1カップは約240ml)のコーヒーが、健康的な食生活の一つとして見なされるようになったのも話題です。ただし、砂糖とクリームを入れ過ぎると台無しなので、ご注意ください。

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