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福島県立大野病院事件第四回公判

 驚いた。記述があったのは別のメモだそうで、もちろん故意に誤ったのではないと思うが、虚偽の前提に基づいて証人から証言を引き出した「引っ掛け」尋問をしてしまったことになるではないか。裁判長が交代したばかりなのに心証が悪いこと、この上ない。

 検察側の再尋問が終わったあと、この取り扱いを巡ってひと悶着あった。

  裁判長 確認ですが、先ほどのメモは証拠として取り扱ってよろしいですね。
  弁護側 供述調書を不同意にしておりますので、そこに添付されたメモも不同意です。
  検事 弁護側はメモに基づいて質問したのですから、法廷供述への添付文書として扱うのが適当だと思います。
  弁護側 やりとりは全て供述調書に残っているのですから、それで十分ではないですか。
  検事 弁護側が、そもそもメモがあることを前提に質問をしておりますから、その信用性を裁判所に確かめていただくためにも添付が相当であると考えます。
  裁判長 裁判所も証拠と一体のものとして添付する扱いを取りたいと思います。
  弁護側 では、弁護側はこのメモに関連する質問を撤回いたします。
  検事 既に再尋問まで行われております。
  裁判長 撤回したいという意思は分かりました。で、メモを添付することは良いですね。
  弁護側 添付することには異議を申し立てます。
  裁判長 異議を棄却します。
  弁護側 どういう理由で添付するのでしょうか。
  裁判長 信用性を判断するためですね。

 不同意にしていた検面調書が裁判所へ渡ることになってしまった。両陪席判事は代わっていないので裁判全体の行方を左右するほどのことではないと思うが、素人目には最後の悪あがきと併せて大変印象が悪い。対して検事はソフトにクールに随分とポイントを挙げたと思う。

 なお、検察側再尋問の最後に検察側が今後どうやってメンツを保とうと考えているのか、また院長が何を恐れているのか示唆に富むなあと感じるやりとりがあったので、ご紹介して本稿を終わりたい。

  検事 証人は産婦人科専門医による事故調査委員会の設置を求めたとのことですが、麻酔科の専門医による専門委員会の設置は申し入れたでしょうか。
  院長 申し入れておりません。
  検事 なぜですか。そのような話は出なかったのですか。
  院長 出ておりません。
  検事 終わります。
  院長 あの、そのことについて、少し申し上げてもよろしいでしょうか。
  裁判長 どうしますか。
  検事 どうぞ。
  院長 事故調査委員会の際にも、麻酔チャートに基づいて専門家の意見を聴いておりますので、決して検討していないわけではないと思います。

 検察は立件する対象を間違えたと考えているのでないか、そんな気がする。そして、その意図は院長にも伝わっており、院長はH医師や自分に飛び火しないようにするのに必死で、加藤医師のことを思いやる余裕はないのかもしれない。

 供述が終わって、検事席には深々と何度も頭を下げたのに、加藤医師の方は一瞥もしない院長の挙動を見て、ボンヤリとそんなことを考えていた。

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