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福島県立大野病院事件第四回公判

 興味深かったのは、検察側が証拠として出している産科の参考書や教科書の執筆者に対して、検察側の引用意図が正しいか照会の手紙を出し、ことごとく検察側の意図を否定する返事を受け取っていたこと。相手の論拠を完膚なきまで叩き潰す「完封」を狙ったものだ。

 これまでだったら、そり込みの検事が「異議」を連発して激しくやりあったのだろうが、ほとんど異議も出ないまま淡々と進む。後から振り返っても、戦意むき出しの彼がいなくなった結果、検察側の闘い方は実に淡泊になった。この局面で交代させたということと併せて考えると、検察側が彼を傷つけないよう上手に負けることを志向しているのかなと思わせる。もはや決着はついたということだろうか。

 法廷をこれまでにない気だるい空気が包む中、1人目の証人が出廷する。当該帝王切開手術の際に手術室に入って薬剤の準備や出血量の記録を行っていたというO看護師。現在は県立大野病院の手術室主任看護師らしい。

 検察側で尋問をするのは、第二回公判でチョンボをした若い検事。非常に丁寧に話そうとしているところは好感が持てるものの、ただ時間だけが過ぎていき、まだるっこしい感じもある。60分の予定のところ1時間15分程度かけて尋問したのだが、出血が多かった客観的事実を主観的にも裏付けた程度で、出血が多くなるきっかけがあったかどうかは記憶がハッキリせず、結局のところ加藤医師の過失を立証するための材料は何も引き出せなかったと思う。

 検察側から見て手応えのあるやりとりだったと思われるのは以下のことくらいだろうか。ただし若干でしかない。

  検事 手術の間、加藤医師が話していたことで覚えていることはありますか。
  O看護師 印象に残っているのは、加藤先生が麻酔医の先生と子宮を取るのかどうか、血液がいつ届くのか、話していたことです。それと加藤先生から、血小板を持ってくるように直接指示を受けたのは覚えています。
  検事 血液がいつ届くか、なぜ話していたのでしょう。
  O看護師 血液が届くのに合わせて子宮を摘出しようとしていたのだと思います。
  検事 医師の応援については話していませんでしたか。
  O看護師 双葉厚生病院のK先生(注・第二回公判で証人出廷したK医師)はいつ呼ぶのですか、と麻酔医の先生が尋ねていました。
  検事 それに対して加藤医師は何と答えましたか。
  O看護師 その時は、大丈夫です、だったか、いいです、だったか、そんな風に答えました。
  検事 証人としては、その答えを聞いた時、どのように思いましたか。
  O看護師 カンファレンス(注・当日午前中に看護スタッフの間でもった打ち合わせのこと。呼ぶ作業がスムーズに進むよう、あらかじめ電話番号を控えておいたという)の時には、双葉厚生病院の先生をお呼びすることになっていたので、お呼びするのがいつなのか知りたいなと思いました。
  検事 どうして知りたいと思ったのですか。
  O看護師 出血量が多くなってきたのと、カンファレンスの時には、お呼びするタイミングが明確でなかったので、いつお呼びするのかなと思いました。
  検事 大丈夫です、という答えを聞いて、どういう印象を持ちましたか。
  O看護師 その時は、先生が出血の原因を分かっていらっしゃって、それで一生懸命対処しようとされているんだろう、じゃあ大丈夫なんだなという風に受け止めました。
  検事 手術室の雰囲気はどんな感じでしたか。
  O看護師 重い感じがしました。
  検事 重いと言いますと。
(この間にメモの記入漏れがあるかもしれません)
  O看護師 院長が来られて、外科の先生を呼ぼうかとおっしゃいました。
  検事 それに対して加藤医師は何と答えましたか。
  O看護師 大丈夫です、と答えました。
  検事 大丈夫です、と聞いて証人はどのような印象を持ちましたか。
  O看護師 あ、大丈夫なんだと思い込もうとしていたというか、大丈夫なのかなという感じはしました。
  検事 大丈夫なんだと思い込もうとしていた、と言いますと。
  O看護師  思い込もうというのが、適切な表現かは分かりませんが、きっと先生は分かっていらっしゃるんだろうと考えました。
  検事 一方で大丈夫なのかな、とは思ったわけですね。
  O看護師 はい。

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