福島県立大野病院事件第四回公判
立証に関係しそうなやりとりだけ拾っていくことにする。全文は周産期医療の崩壊を食いとめる会でご覧いただきたい。尋問を担当したのは新顔のかなり若そうに見える男性。ソフトだが淀みのない口ぶりは、やはりキレるんだろうなあという印象である。
院長の答えも非常によく整理されている。が、途中で滔々と専門分野である整形外科的な解説をしようとしたりして、トップとしての責任をどこまで感じているのだろうかと、少々首をかしげたくなった。
検事 証人は、この帝王切開手術が行われることを事前に知っていましたか。
院長 知りませんでした。
検事 初めて情報を得たのはいつのことですか。
院長 12月17日午後3時半ごろです。
検事 どこで知りましたか。
院長 院長室の前です。
検事 誰から情報を得ましたか。
院長 事務シカン(注・字が分からない。次長にあたるという)のKさんからです。
検事 どのように情報を得ましたか。
院長 Kさんが、私に「先生ご存じですか。帝王切開で5000ミリリットルの出血をしている患者さんがいるそうですよ」と言いました。そこでどうなっているんだろうと心配になって手術室へ行きました。
検事 どうなっていましたか。
院長 手術室に入る前に採血室があるのですが、そこで職員がお互いに採血しあっていました。
検事 手術室に入ったときはどのような様子でしたか。
院長 患者さんは全身麻酔がかかっていて、麻酔医がパンピングで輸液していました。加藤医師は患者さんのお腹の中に両手を入れていました。後で聞いたら圧迫止血をしていたそうです。
検事 心電図モニターは見ませんでしたか。
院長 見ました。
検事 モニターを見た時、表示はどうなっていましたか。
院長 多少上下はありましたが、脈拍が140くらいで最高血圧が60くらいでした。
検事 どのように考えましたか。
院長 出血量が7000ミリリットルくらいだろうという認識でしたので、出血性ショックだろうと思いました。
検事 ショックの原因はどのように考えましたか。
院長 出血量が多いですから、循環血液量が足りないことによるのだろうと考えました。
検事 生命の危険があると感じましたか。
院長 この状態が長く続くとマズイという認識はありました。
検事 マズイとは具体的にどのようなことですか。
院長 循環血液量の足りない状態が長く続くと、心臓、腎臓といった重要な臓器の組織が死んでいってしまうので、長く続けば危ないと思いました。
検事 どのようにすれば生命の危機を脱せられると考えましたか。
院長 ショック状態を脱するには血圧を上げることが必要だと考えました。
検事 そのためには出血を止めることも大切ですか。
院長 そうだと思います。
検事 証人は具体的に何かしましたか。
院長 お腹の手術で出血が止まらないのですから、技術的に得意な先生を呼んで止めてもらったらどうだろうかと考え、外科部長のM先生に入ってもらったらどうか、と声をかけました。
検事 被告人はどう答えましたか。
院長 こちらの声が聞こえなかったのか間がありまして、加藤医師の後ろにいた看護師が「院長がこう言ってます」と伝えて、その時に気づいたようで「いや大丈夫です」と答えました。
検事 M医師(注・第二回公判で証言した外科医)も松本部長を呼んだらどうかと提案していたことを知っていますか。
院長 はい。手術室に入ったところで、左手にいた看護師から「先ほど、M先生からM部長を呼んだらと提案があり、またH医師(麻酔医)からは双葉厚生病院のK医師を呼んではという提案があったんですけれど、加藤先生が大丈夫ですとおっしゃって呼ばなかったんです」と説明されました。
検事 それを聞いて、被告人に再度応援を要請したらどうかという提案をしたことはありますか。
院長 ありません。
検事 なぜですか。
院長 それは手術の指揮系統の話をしないといけないと思うのですが、手術中の体制のことは執刀医の指揮系統のことです。もちろん全身管理は麻酔医の責任なので手術を止めることもできますが、執刀医が大丈夫です、というんだから、それ以上は言えません。応援を呼びませんかと言うこと自体が異例のことだと思います。
検事 そして証人はどうしましたか。
院長 途中で退出しました。
検事 どのようなタイミングで退出したのですか。
院長 頼んでいた血液が到着しまして、輸血を開始しますと、間もなく本当にすぐだったと記憶していますが、血圧がスッと120程度まで上がりましたので、血液が間に合ったんだなあとホっとして退出しました。