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なぜ愛育病院は「総合周産期母子医療センター」返上を申し出たか(下)


 もちろん、このような霞ヶ関の力学だけで、すべてが説明できるわけではない。

 日本医師会で勤務医の労働環境改善のためのプロジェクトを担当している今村聡常任理事は、「確かに今の医師不足の中で杓子定規に労基法を当てはめられないというのは、その通りだがこの状況が続いたことで現場にしわ寄せが来て、中原先生のようなことが起こったのではないかと思う。個人的には、勤務医の過重労働等の労働環境の改善は喫緊の重要課題という認識の下、労基法からのアプローチもやむを得ないという考え方もある」と話す。

 それでなくても、病院が労働行政指導の対象になりやすい構造転換が進んでいる。

 2004年4月に大学病院が独立行政法人化し、人事院規則に代わって労働安全衛生法の適用を受けるようになった。このため、大学病院も労働基準監督署の指導対象になり、労基法に違反するとみられる場合には、是正勧告や使用停止命令、罰則の適用もありうる状況となった。「法令違反があれば淡々と業務をこなしていくのが労働基準監督署の職員だから、もともと労働基準法など存在しなかったような医療現場に対してこうした立ち入り調査が行われ、是正勧告がされていくのが必然」と、厚生労働省の職員は話す。

 2010年度に独法化を控える国立がんセンター中央病院の土屋了介院長も、「センターの常勤医師は超過勤務手当をほとんどもらっていない。独法化すれば、労基署から責め立てられることになるだろう」と懸念を示す。

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