DPC病院の延命は"ブラックボックス" ─ 調整係数廃止で
DPCを導入している病院の延命に重大な影響を与える「調整係数の廃止」をめぐる問題で、厚生労働省は新たに「基礎係数」という概念を持ち出した。厚労省の担当者は「"ブラックボックス"を設定するつもりではない」などと釈明しているが、信用できるだろうか。(新井裕充)
急性期医療を担うDPC病院には現在、前年度の収入実績を保証する「調整係数」が設定されており、経営の安定化を図る役割を果たしている。しかし、自公政権の医療費抑制策が吹き荒れる中、「調整係数」が2010年度から段階的に廃止されることが既に決まっており、「新たな機能評価係数」に徐々に置き換わることになっている。
このため、中医協の下部組織であるDPC評価分科会(会長=西岡清・横浜市立みなと赤十字病院長)は昨年から病院の機能を評価する項目の選定作業を進めてきたが、大病院の教授らが発言力を持つ同分科会では高度急性期の病院を優遇する議論が展開されている。今年9月から中小病院の立場を代弁する委員が2人加わったが、「時既に遅し」の感がある。
昨年、「新たな機能評価係数」の議論を開始した当初は中小病院を評価するような項目もあったが、今年の夏以降に6~9項目に絞られ、11月30日に開催された同分科会で7項目に絞られた。しかし、各項目の計算式など病院経営に直結する論点は確定していない。
こうした中、厚労省は同日の分科会で、「基礎係数」という新たな概念を提案した。これは現在の「調整係数」を段階的に廃止してもなお残るベースの部分であり、「調整係数の廃止を実質的に断念した」と楽観視する見方もある(下図を参照)。医療系メディアの中には「これで中小病院が救われた」などと今回の厚労省案を絶賛する記者もいる。果たしてそうだろうか。
厚労省が示したイメージ図では、「現行」部分の長方形と「平成XX年」の長方形が同じ大きさで描かれており、完全移行するまでの間のベース部分である「暫定調整係数」が全体の7割程度を占めるように見える。この図を単純に受け取れば、中小病院にとってはまさに朗報と言えるが、手放しで喜べるほど厚労省は甘くない。この図は一種の"トリック"と考えるべきではないか。
同日の質疑では、「基礎係数という新たな概念が突如出てきた」と指摘する声もあり、現在の「調整係数」と平成XX年の「基礎係数」との関係についての質問が相次いだ。DPC制度に否定的な日本医師会の常任理事を務める木下勝之委員(成城木下病院理事長)は、「今後の方向性としては今の調整係数とほとんど変わらないような係数に最終的にしていって、『どこの病院でも不満はないんだ』という考え方ですね?」と質問。厚労省の担当者は次のように否定した。
「これ(基礎係数)は『突如降ってわいた』という指摘をされるとちょっと辛い。(現在の)調整係数を、さまざまな(病院の機能を)評価をする指標に置き換えていこうというのだが、それ(新たな機能評価係数)ですべての(調整)係数を評価して置き換えることはできないことは自明だと思うので、やはりベースになる急性期の医療機関が担っているファクターがあって、それが定数なのか、それが機能に応じてなのか、いろんなご意見があるのも承知しているので、それは少なくとも平成22年改定までに合意が得られることはちょっと難しかろうと思う。名称として、突如降ってわいたかもしれないが、何か"ブラックボックス"を設定するというつもりでご提案しているわけでない。その前提で、そこに至るまでに2段階のプロセスを踏んで軟着陸をしていこうということ。ですから、『今と変わらない』ということではない」
このほか、完全移行までの間をつなぐ「暫定調整係数」をどのように算出するかの質問もあったが、厚労省の担当者は「そこは計算の仕方だと思うので、激変緩和をどういうふうに設定するかで条件が変わる」などと突き放している。詳しくは次ページ以下を参照。
【目次】
P2 → 「調整係数の段階的廃止」について ─ 資料説明
P3 → 質疑① ─ 「移行期間は『暫定調整係数』で最低水準を保証」(企画官)
P4 → 質疑② ─ 「激変緩和をどう設定するかで条件が変わる」(企画官)
P5 → 質疑③ ─ 「時間をかけて、在るべき姿を議論」(企画官)
P6 → 質疑④ ─ 「"ブラックボックス"を設定するつもりではない」(企画官)
P7 → 「かなり理論武装しなきゃいけない」 ─ 西岡分科会長