村重直子の眼9 小山万里子・ポリオの会代表(中)
小山
「そうですよね。ですから今ポリオの会では医師のご指導を頂いてポリオ受診票というのを作っていまして、B5でちょうどカルテに貼れるサイズです。住所氏名年齢、それから現症状がいつごろ、たとえばポリオに何歳のころにかかって、その時に右足がどうなって、身体障害者手帳は何級と、今の症状はいつごろ起きたか、本日の受診の目的、そういうものを書くような」
村重
「素晴らしいですね」
小山
「そうしないと貴重な診察時間を無駄にして、こちらが損しますから」
村重
「そうなのですよ。あの患者さん、もう少し何か言いたいことがあったのではないかと、ずっと気になることもあります」
小山
「それからお話ししたいことを、緊張していますから忘れるのですよね。ですから、こうやって自分で書いていくと、自分の病歴がきちんと頭の中に入って、先生への説明漏れとか、そういうものがなくなりますよね。これは患者がエゴイスティックに、自分を守るためやらなきゃならないことだと思っています」
村重
「ありがとうございます。ぜひそうしていただきたいと思います」
小山
「変な話、ポリオはフルコースですべて障害を持っていますので、医療にとっても、これほど面白い患者はないと思っているのですけどね、私。呼吸から嚥下から排泄から上肢下肢、側わん、筋肉のある場所すべて症状が起きますからね、ですから研究してくださるのでしたら、模擬患者も、これまで3つの大学でやっています。首都大学東京の保健科学大だった時と、文京学院大学、それから河口湖にある健康科学大学、そこで理学療法士の学生さん、首都大学では看護学科やOT、あと放射線学科の人たちに車イスでの介助の仕方なんかを練習していただきました。放射線撮影の台に乗る時に、車イスに触るのも初めてという学生さんたちが介助して下さる。面白いのは、学生さん同士だと模擬患者をやっても脚長に左右差がないって最初から分かっていますよね。ところがポリオの患者だと、私も面白がって質問します。左右差どうでしたか、ありましたか、何センチでしたかとか。正解がないですから、みな緊張してやりますよね。模擬患者を始めるきっかけになったのが、都立保健科学大学の学長でいらした米本恭三先生が、患者は模擬患者などをやって医療教育に貢献しなさい、と言ってくださいました。模擬患者をやれば、学生がポリオについてじかに体に触れて知る。それで理学療法士が1年間60人、10年間続ければ600人、ポリオのことについて少なくとも基礎知識を持った理学療法士が現場に出るだろう、そうしたらあなた方が結局は得をするんだと、だからそのためにやれと仰ってくださって」
村重
「ありがとうございます。患者さんに教育していただけたら、本当にありがたいですね。現場で患者さんに接する人材を育てること。医療では教育による人的資源が本当に重要です」
小山
「先日、私どもの会員が家の近くの病院に行ったところ、模擬患者で実習をしていた学生さんが一生懸命やっていたよと言って、声はかけなかったけど良かったよって。文京学院大学では模擬患者の他に、『患者が語る』授業で、学生さんに私たちのこういう症状がある、こういう悩みがあるというお話をして、それで体に触っていただくこともやっているのですけれど、大体びっくりされますね。弛緩性麻痺というのが、大体知りませんからね」
村重
「リハビリする時も痙性麻痺を想定してしまう人がほとんどということでしょうか」
小山
「弛緩性麻痺ってあんまりございませんでしょう。先日ある学会のパネラーをさせていただきましたが、壇に上ろうとしたら高くて上がれない。そこで壇に腰掛けてから足を横に流して腹這いになって上がろうとしたら周りの方がとてもびっくりされて両腕を引っ張り上げてくれようとするのですけれど、そうされると頭陀袋のようになって動けないのですよ。『先生、そこでしゃがんで私の手すりになってください、肩につかまって立ちますから』と言いました」
村重
「そういうことも、知らないと、なかなかすぐには対応できないですね」