「どこでボタンをかけ違えたのか」 宮台真司氏講演 ~現場からの医療改革推進協議会より
80年代に先進各国では、僕らの業界では『新しい社会運動』と呼ぶものが生じました。北イタリアではスローフード。オンタリオ州からはメディアリテラ シー運動、これは別にお父さんがパソコンを使えるようにする運動じゃないんですよ、そうじゃなくて国境を越えてアメリカからやってくるメディア情報が、権益によってインタレストによって方向づけられているということに敏感になれという市民運動ですね。さらに、そのアメリカではアンチ巨大マーケット、アンチウォルマート運動という風に言いますけど、それがあった。
実は、第二次竹下内閣以降ですね、大規模店舗規制法緩和など流通に対する自由化の圧力というのは、アメリカに活路がなくなった巨大マーケットがロ ビースト、ロビーストが3万人いるわけですねアメリカには、ロビーストを使って年次改革要望書の元になるような対日要求にそれを入れ込ませた結果なんですね。
とにかくヨーロッパやアメリカでこういうことが起こった。日本における理解は何かというと、スローフードは有機野菜、トレーサビリティー。関係な いです、そんなもの全然、何の関係もない。本質はプロキシミティですね近接性。つまりですね、トレーサブルにして法律の網をかけてサンクションで怖がらせて規制を守らせるやり方は、行政が弛緩したり何かあったりした時にやっぱり問題なんですね。そうじゃなくて顔の見えるヤツのために作ろう、という話ですね。あるいは顔の見えるヤツから買おう。そうすると近接性が働いて、例えばね、阿部司さんという食品添加物の専門家、僕らがやっているマル檄トークディマンドにご登場いただいた時にですね、『なんで添加物を売りまくるセールスマンだったあなたが今や添加物の危険を訴える側に立つんですか』『それは、もう想像通りですよ。私の娘がね、私の作った添加物まみれのミートボールを食べてたんです。真っ青になりました。やばい、これは絶対にやばい』。それでコンバージョン、転向したんですね。似た転向は私にもありますのでね、よく分かります。
さっき第一部でロハスというのがありましたけれども、実は今イタリアでは、ロハスとスローライフ、これはスローフードから展開されてきたものですけれども、その概念的な違いが論争になっているんですね。マクドナルドイタリアがですね、地元の食材を使ったハンバーガーを出したんですよ。それを政府の関係者が皆こぞって褒めたのね。そうしたら、ブラっていう元々スローフードの発祥地にいる活動家たちが、『バカじゃないのか。これはロハスだ』と。つまりロハスって、アメリカのウォルマートという大きなマーケットが始めたものなんですね、ご存じのようにlifestyle of health and sustainability。つまり人々が有機野菜やトレーサビリティに関心を持つであろうということから新しいマーケティングを展開したのがロハス。 スローフードはそうじゃない。システムを頼らず、できるだけ近接性を使って社会を回していこうということ、でも日本では全くそれが理解されなかったですね。
ヒドイことが起こりました。その80年代、皆さんどうだったかと言いますと、アメリカの要求に従って何をしたかというと、共同体の市場依存と国家 依存を加速、つまりスロットルをベタ踏みにしたんですね。それはまずアメリカの市場開放要求を完全に受容していくという流れがありました。一方で408兆 円の公共事業を義務付けられてですね、そこにジェネラルエレトリックス社を始めとして米国の重厚長大産業を入札させろって、そういう要求ですね、この要求を呑んだことによって、日本の地方はほぼ完全に壊滅への道を歩むことになります。
この辺のスライドは飛ばしましょう。ご存じのように、全部日本の地方や共同体の疲弊に関係している流れです。ヨーロッパでは絶対に起こらなかったような流れが日本で起こっています。