「どこでボタンをかけ違えたのか」 宮台真司氏講演 ~現場からの医療改革推進協議会より
結局ですね80年代の勘違いの結果何が起こったのかというと、要するに最終的には、経済回って社会まわらず、ということです。我々は共同体の空洞化を市場や国家が回ってるからいいじゃないかということで放置してきたわけですね。で、たしかに経済成長がうまくいっていた。それを背景にして、全国総合開発的な再配分がうまくいっていた時代があります。その時に我々は共同体の穴を忘却してしまったんですね。
当然、経済はグローバル化すれば不安定になります。案の定97年の決算期にトンデモないことが起こります。山一、拓銀が倒産します。で、98年3月から自殺率が急上昇して、それまで2万4千人台だったものが、コンスタントに3万1千人台になります。清水康之さんというさっき言った自殺実態白書をつくったライフリンクの代表の背景分析によりますと、事実上、金の切れ目が縁の切れ目なんですね。
要は重回帰分析で単一要因だけでなく各要因の絡み合いを見る。そうすると、もちろん鬱も重要、経済費(?)も重要、医療費(?)も重要なんだけ ど、まず最初に何かがあるんですね。何かがあって会社を辞めざるを得なくなります。会社を辞めて収入が入らなくなると家族が離散するんですね。で、離散した後は、孤独死か自殺への道を歩むというのが基本的な流れ。つまり、金の切れ目が縁の切れ目になっている。まさに社会の穴を象徴しているわけですよね。
さっき80年代の勘違いという話をしましたが、それが90年代に入って深刻化するのはグローバル化が背景です。グローバル化というのは、社会科学の領域では常識だけれども、資本移動の自由化のことで、1971年から順次起こったブレトンウッズ体制の終焉ですよね。金本位制をやめる、変動相場制を導入するという流れですよね。
その結果、何が起こったのかというと、国内政策がすべて資本係数、つまり単位あたりの生産量を上げるのに必要な投資、これに換算されるようになったんです。たとえば税制で累進性を上げる、法人税率を上げる、そうすると投資コストが上がるわけですね。同じように雇用を規制する、解雇を規制するとか非正規雇用を規制するとかすると、今度は雇用リスクが上がって当然投資リスクも上がる投資効率は落ちるわけですよね。そうすると企業はどんどん資本を移転して行く。それが現在の流れですね。
それゆえに何が起こるかというと、古典派経済学で言うところの平均利潤率均等化が起こるわけですね。どの道、我々の誇る、たとえば自動車を中心とする既存産業というのは必ず中国、インドに追いつかれます。何が起こるかというと、我々の労働分配率は中国や新興国のそれに並びます。低い方に並ぶ。当たり前です。だってそうしなかったら競争を生き残れないんだから。その結果、経済市況がよい、あるいは優良企業が生き残っているとしても、人々は貧困にあえ ぐということになります。これはもう20年前から知られている当たり前の原理ですけど、我々日本人はちゃんと知っているでしょうか。経済誌が肯定したから 景気はよくなりつつある、人々の生活も豊かになるだろう、ってバカじゃないですか。20年前に、そんなことはあり得ないということは、もうハッキリしてるわけですよね。