「どこでボタンをかけ違えたのか」 宮台真司氏講演 ~現場からの医療改革推進協議会より
11月13・14日に開催された『現場からの医療改革推進協議会』は今年で5回目を迎え、例年通り多士済々によるプレゼンテーションが繰り広げられた。大変勉強になったので、全部ご紹介したいのはヤマヤマだが、膨大な量になるので興味のある方はユーチューブでご覧いただきたい。ここでは、目からウロコの落ちる思いがした宮台真司氏の講演をご紹介することにする。(川口恭)
社会学者の宮台真司と申します。たぶん初めてお目にかかる方が大半だと思いますが、元々は15年前の援助交際ブームの火付け役、あるいは火に油を注いだ人間、つまり僕の何百人という女子高生ネットワークをメディアに紹介して、それを見た女子高生たちが雪だるま式に参加してくるという動きを作った張本人として名高いかもしれません。が、元々は数理社会学、国家権力の数理的な記述ということで博士号を取っている者であります。今日は比較的、後者の方のノリでお話をさせていただきたいと思います。
どこでボタンをかけ違えたのかというテーマです。実は日本の医療だけではなく、教育その他様々な行政領域で、ほとんどデタラメなことが起こっている、その背後に実は行政の問題というよりも我々社会の問題があるんだということをお話しをさせていただきます。
まず日本の社会の異常性。自殺率に見られる異常さがありますよね。英国の3倍、アメリカの2倍、OECD加盟国では上から2番目。1位はハンガリーですね。西側では圧倒的な1位ですね。さらに一昨年、自殺実態白書が出ました。工場城下町、簡単に言えば工場があって、工場団地があって、そこで独身の人たちが働いている。その働く人たちの自殺率が非常に高い。あるいは東京や大阪の大都市近郊では独身の女子がどんどん死んでいる。これは工場城下町や郊外住宅地がどういう社会の在り方をしているのかを示す重要なデータだと思います。
あと2カ月前ですが、超高齢者所在不明問題というのと乳幼児虐待放置問題がありました。日本では行政批判が喧しかったんですが、海外のメディアは、行政批判している場合じゃない、日本の社会がおかしいんじゃないか、近隣に100何歳の老人がいるいないなんて問題に誰もが気づかずにスルーしているというのは、頭おかしいんじゃないかみたいなですね、そういう報じ方でした。全く正しいコメントですね。30年前の日本だったら、様子がおかしいんじゃないか、個人情報保護法が縦割り行政の障害になっているんじゃないかなんてどうでもいいんだよこのヤロー、という話ですね。
さらに、僕のお師匠の小室直樹先生が1カ月前にご逝去なされましたけれども、僕は東大病院の霊安室でずっといたんですね。で、僕は取材する癖があるので、病院の関係者に訊いたんです。東大病院というのは、紹介状がないと診てもらえない病院なので、一定の社会層の人が来ているわけですけども、『東大病院で死ぬ人の中で葬式を出さない人がどれ位いるのか』って訊きました。『葬式を出さない人は4割弱いる』ということでした。これ、すごいですね。村八分の残り二分は葬式ですよ。どんなにつま弾きされている人間でも葬式は出すんですね。今は葬式を出さない、4割近くが、東大病院でですよ。つまり火葬場に直行です、霊安室から。