村重直子の眼15 長尾和宏・長尾クリニック院長(5)
いよいよ最終回です。
長尾
「医系技官ってさ、何であんなに忙しそうなんだろうね」
村重
「余計な仕事をいっぱいしているからだと思いますよ」
長尾
「そうなの?」
村重
「役所の構造として中枢を担うのは法令事務官なわけですよ。予算を取ってくるとか、他の省庁と折衝するとか、国会議員との接触とかも法令事務官がメインなんです。技官は何をするかと言うと、それの周りにいてお手伝い、彼らにも言い分はあるでしょうけれど、ザックリ言うとそういうことですよね。中枢には関われないわけですよ。かつ法律知識もないわけですよ。公務員試験も受けずに入るわけですから。
そうすると医療の専門性もない、法律の専門性もない、つまり官僚としての専門性がないということですよね。そういう人たちにいくら期待しても無理なのです。現場から見れば医療の専門性がないわけで、法令から見れば法律の専門性もないわけですよ。どっちから見ても中途半端な存在になっていて、そういう人が存在するために、法令事務官が現場の専門家と直接話ができないという状態になっているんですよね」
長尾
「さらば医系技官やね。でもそもそも、医系技官という言葉をみんな分からないから。ウチの職員に聴いても、みんな分からないって、ああそうなもんかなあって。大体、役所でお医者さんが何をやってるか分からないしねえ」
村重
「そういう中途半端な存在であることは自分たちが一番よく分かっていて、ある意味苦しんでもいるので、その結果国民も苦しめているのであれば、お互いに不幸になるばかりなので、早く辞めた方がいいと」
長尾
「先生テレビに出はるとよろしいわ、定期的に。デジタル放送の時代になって番組を買えるじゃないですか。だからちゃんとしたマジメな番組を1個作って、そこばっかり見てる、そういうのを作りたい。そんなに高くなくてできるんですよ。そういうのもみんな見てもらって医療の仕組みとか1時間ぐらいずっと喋りっぱなしの、そこで先生の持論を展開してもらって延々と。
それをやらないと、少々短くテレビに出ても誰も見てないし、何も変わらないわけですよ。みんな基礎知識がないですから。本当に何も知りませんわ。情けないくらい、お医者さんも。たとえば、先日も療養担当規則ってあるんですけど、ウチにおる医者たちに療養担当規則って分かりますかって訊いたら、分かりません言いよります。毎日言うてんのに、なんで分からへんねん。中に書いてある憲法みたいの何でもいいから言ってごらんと訊いても、何も言えない。規則とか興味ないし」
村重
「現状では、そういうものに縛られざるを得ないのは、その通りだと思うんですけど、願わくば、そんなものは関係なく、一人ひとりの患者さんに合わせて医者の専門性の判断で動けるようにしなければいけないと思います」