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イレッサ和解勧告で、国立がん研究センターが緊急会見

■ 国立がん研究センターの見解
 

[嘉山孝正・国立がん研究センター理事長]
 お直りください。それではまず、資料の確認からしてください。

[加藤雅志・国立がん研究センター広報室室長]
 それでは、資料の確認をさせていただきます。資料は大きく分けて2種類ございます。

 1つ目ですが、「イレッサの和解勧告案に対する国立がん研究センターの見解」がございます。2つ目の資料ですが、6枚ございます。(中略)

[嘉山孝正・国立がん研究センター理事長]
 それでは、イレッサの和解勧告案に対する国立がん研究センターの見解について、皆様のお手元にあるものを読ませていただきます。

 まず、イレッサの副作用により急性肺障害・間質性肺炎を起こし、亡くなられた患者さんには心より哀悼の意を表し、心より御冥福をお祈りいたします。

 今回、肺がんの治療薬であるイレッサの訴訟において、東京地裁と大阪地裁が和解勧告を提示しました。報道によると、裁判所の判断は、世界に先駆けて販売承認を行ったわが国の安全対策が不十分で、イレッサによる副作用の被害が拡大したと思わせます。

 この裁判所の判断は、自然科学を人間に施行しているすべての医療人にとっては大きな衝撃を与えるもので、全ての患者さんにとっても不利益になるものと思わざるを得ません。

 その理由は、今回のイレッサによる副作用についての訴訟は、これまでの非加熱製剤によるHIV(エイズウィルス)訴訟やB 型肝炎訴訟等の明らかな人為的過誤による薬害被害とは全く異なるからです。

 HIVやB型肝炎の感染は、当時予想することが難しかったものの、他に感染を防ぐ方法は当時もあったと考え、薬害と言えると思います。

 一方、今回のイレッサによる急性肺障害・間質性肺炎は、抗がん剤のほか漢方薬や抗生物質などの身近な薬においても発症する副作用の1つとして知られております。

 すなわち、今回のイレッサによる副作用での不幸な結果の責任を問うという判断は、医療の根本を否定すると危惧します。すべての医療は安全であるべきです。

 しかし、自然科学である人間を対象とする医学には、どんな努力をしても、絶対安全は残念ではありますがありません。どのような安全と考えられている薬剤でも副作用があります。

 今回の判断は、医療に伴うリスクが出た場合に国家ないし医師が責任を取ることを意味していることになりかねません。これを外科手術にたとえれば、不可避的な副作用を受認しないことを意味しています。

 結果、医療における不可避の副作用を認めなくなれば、すべての医療は困難になり、このような治療薬で効果がある患者さんも医療の恩恵を受けられなくなり、医療崩壊になると危惧します。

 今回の件では、抗がん剤を投与する治療医は常に急性肺障害・間質性肺炎などの重大な副作用が起きる危険性を認識しながら治療に当たってきましたし、現在もそのようにしております。

 また、発売開始前の治験においてイレッサは高い効果を示しましたが、投与を受けた患者さんの中に急性肺障害・間質性肺炎を起こした方がいたことから、当時の厚生労働省内の国立医薬品食品衛生研究所・医薬品医療機器審査センターは治験結果を科学的に審査し、イレッサによる急性肺障害・間質性肺炎を重大な副作用として添付文書に記載し、注意を呼びかけるよう指導しています。

 しかし、市販後、日本全国の施設で新しい治療を待ち望む患者さんに広く使用されるようになり、時に重篤かつ致死的な急性肺障害を引き起こすことが明らかになってきました。

 厚生労働省は販売承認後もイレッサの副作用情報を集め、販売開始3か月目に急性肺障害・間質性肺炎の緊急安全性情報を出すなど、医療現場から見てもイレッサの安全性の確保に十分注意してきたと考えます。

 イレッサが世界に先駆けて日本で承認されたことによって、日本人の多くの患者さんがその恩恵を受けました。また、その効果を世界に発信し、重大な副作用の情報についても最初に世界に伝えたことは、日本人のみならず世界中でがんと闘う患者さんのためにも大きく貢献したと思います。

 今回のような薬剤の副作用で不幸な転帰をとり、受認とされた患者さんやご家族を救済する制度としては、国の医薬品副作用救済制度により健康被害について救済給付が行われていますが、抗がん剤や免疫抑制剤などは対象除外医薬品となっています。

 抗がん剤は一般薬に比べて重大な副作用が見られることがあり、投与に当たっては患者さんに対して十分に治療のメリットとデメリットを説明した上で治療を行っていますが、抗がん剤よる副作用が見られた場合の重大な健康被害の救済制度を創設すべきと考えます。

 すなわち、本件の個別の問題に限局するのではなく、国民的な議論が必要であり、国会で十分に議論する必要があると思います。

 今後も、国立がん研究センターは職員が一丸となって、国や他の機関と共に、すべての治療が安全に行われ、1人でも多くのがん患者さんの命が救われるように、医療と研究の発展に努力してまいります。

 重ねて、イレッサをはじめ急性肺障害・間質性肺炎など様々な副作用を生じた患者さんや、亡くなられた患者さんに対して心より哀悼の意を表します。

 平成23年1月24日、国立がん研究センター 理事長・嘉山孝正

 以上が見解でございます。それで、この後......、これ(イレッサの添付文書)をすぐ配ってください。

[加藤雅志・国立がん研究センター広報室室長]
 では、追加資料の配布をよろしくお願いいたします。
 

【目次】
 P2 → 国立がん研究センターの見解
 P3 → 薬剤性急性肺障害・間質性肺炎について
 P4 → 「副作用を誰かの責任、医療が成り立たない」 ─ 嘉山理事長
 P5 → 「裁判所の判断は自然界を全く理解していない」 ─ 嘉山理事長
 P6 → 「医療、医学、自然科学が成り立たなくなる」 ─ 嘉山理事長
 P7 → 「私たちは決して対立軸ではない」 ─ 片木代表
 P8 → 「リスクと利益を知った上で患者は闘っている」 ─ 天野理事長
 P9 → 「いかに国民が納得する制度をつくるか」 ─ 嘉山理事長


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