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ニュース〜医療の今がわかる

医師の不足数は2.4万人? 5.2万人? 12.5万人?

■ 「勤務時間に注目すると5.2万人足りない」 ─ 堺院長
 

[安西祐一郎座長(慶應義塾学事顧問)]
 それでは、ヒアリングに移らせていただきます。まず、日本病院会会長の堺常雄先生に、お忙しい中いらしていただいております。ご意見を伺えればと思います。20分程度で大変短くて申し訳ございませんが、よろしくお願いいたします。

[堺常雄・日本病院会会長、聖隷浜松病院院長]
 ただ今、ご紹介いただきました日本病院会、聖隷浜松病院の堺でございます。

 今日は病院団体の立場、あるいは比較的大きい急性期病院の立場から医療現場の状況についてお話しさせていただきます。

 ▼ スライドのタイトルは、「医師は充足しているのか? ─ 医療現場の状況について」。

 この検討会でも色々議論はあるわけですが、問題のとらえ方はいくつかあると思います。私、個人的にはこの3つ(質、量、費用)をしっかり押さえる必要があると思っています。

 意外に、この三角形(質・安全・効率 / 量 / 費用)というのは医療に関して......。例えば、アクセス、コスト、クォリティーとか色々言われていますけども、この医師不足に関してはこの3点が重要ではないかと思っています。(中略)

 大変重要なのは、費用の問題だと思っています。財源の担保がなければ、あまり議論の価値がないので、もしない袖が振れないんだったら、この議論もあまり意味がないのではないかと思っています。

< 質について >
 最初に、(質の問題として)良質な臨床医の教育・育成でございます。これは皆様、ご異論のないところだと思います。(中略)一昨年、卒後臨床研修制度の見直しがありましたが、私は個人的には、あるいは日本病院会としても間違いだったと思っています。

 大きな理由は、エビデンスに基づかない見直しだったような気がしています。やっぱりエビデンスは、第三者による評価が不可欠ではないかと思っています。

 それからもう1つは、望まれる専門医の改革、整備でございます。臨床現場で足りないのは専門医です。(中略)初期研修医はあくまでも研修の身分であって......。確かにいくらかの労働力はありますけれども、しっかりした労働力としては評価できないと思っています。

 良質な医師の育成に関しましては、先週ですか......、「全国医学部長病院長会議」があった中で、今日、ご出席の黒岩先生(同会議会長)が「教育の内容だけではなく学生の質の担保も確保し、教育の質を担保することが必要である」と......。

 まさに当然のことで、私どもも全く同意するわけですが、そのためにはぜひ、その成果を評価する仕組みをつくっていただきたいと思います。

 残念ながら、卒後臨床研修制度の見直しに関しては、大学医局の人材派遣機能が潰れたとか、いろんなことが言われました。たぶん本当だと思うんですが......。

 あまりにもエビデンスに基づかない感情的な議論だったんじゃないかと思っております。

 例えば、医師の質の担保として卒後臨床研修制度に関しましては、第三者評価をやっております。やっているのは、NPO法人「卒後臨床研修評価機構」(理事長=髙久史麿・自治医科大学学長)でございます。

 ▼ 役員名簿はこちら

 これは初期研修プログラムの評価や人材育成等をやっているわけですが、ここで目に付くのは大学病院の関心が低いっていうことでございます。

 これは別に良い悪いということではなく、事実として「低い」ということでございます。例えば会員を見てみますと......。(中略)

 ▼ 2011年1月1日時点で、96認定病院のうち大学病院は8施設のみ。

< 量(数)について >
 次に、量、数の問題です。問題は、適切な勤務医の数が確保されているのかでございます。これにはいろんな視点、観点があると思っています。大きく3つ挙げたいと思います。(中略)

 ▼ ①需要と供給の観点、②質・安全・効率の観点、③政策の観点

 3番目の「政策の観点」ではいくつかあるわけですが、問題になっている医学部教育というのは、研究者育成なのか臨床医育成なのか、このどちらかで議論は分かれてくるのではないかと思っています。

 それからもう1つ、臨床医を育成するのは医学部だけでいいのかということですね。これは問題提起でございます。

 それから、現状の医師国家試験は適性か、ということです。人によっては「100%通せばいいんじゃないか」という元気のいいご意見もありますけれども、そういうことも含めて医師国家試験の在り方が問われてくるかと思っています。(中略)

 そういう意味で、医師不足をいろんな切り口から見てみますと、まず去年の6月に行われた「医師不足実態調査」、厚生労働省のデータでございます。現員医師数が16.7万人、不足数が2.4万人で、不足割合は14.4%でございます。

 勤務時間に注目しますと5.2万人足りなくて、不足の割合が32.1%でございます。

 ちなみに、OECDヘルスデータ......。これは病院勤務医だけではなくて全医師になると思いますが、(現員医師数はOECD)平均で(人口1000人当たり)3.2人、日本は2.2人ですから、大体31.3%足りない。(中略)

< 費用について >
 では、(医師を)5万人を増やすためにどれぐらいお金が掛かるか。これは単純な机上の計算でございます。勤務医の平均年収は大体1479万円と言われています。それに5.2万人を掛けますと、約7690億円です。1年当たり大体513億円です。(中略)

 (医師数増加に伴う医療費の増加額は年間)約3467億円ということですから、かなりのお金が掛かる。

 実際、今の計算は2006年の長谷川先生(日本医科大教授)のデータを基にしているものですから、現在はどうかということで、聖隷浜松病院で計算してみました。(中略)

 これで分かったことは、近隣の病床が減っても......。「近隣の病床が減れば、その分(集約化で)医者が潤沢になる」というご議論がございますが、病床が減っても、病院が努力しても医師勤務時間の大きな削減にはなりにくいという現状でございます。

< 医師育成について >
 医師育成についてでございます。大学医学部の現状は、大学医学部6年、臨床研修2年。臨床研修に関しては最近、日本医師会の提案で「出身大学のある都道府県でやったらどうか」ということでございます。

 それから、(独立行政法人)「国立国際医療研究センター」(理事長)の桐野(高明)先生がおっしゃったのですが、「生命医科学大学院」4年をつくって、その上に「生命医科学大学院」4年、(または)「医師養成専門職大学院」4年を......。

 この案は、欧米でやっている「一般大学」4年、「メディカル・スクール」4年と非常に似ているわけでございます。「メディカル・スクール」に関しては、「全国医学部長病院長会議」でも反対ということでございます。(中略)

 (意識調査によると)6割程度の教員が何らかの形で「メディカル・スクール」の実現を希望しているということです。これはかなり注目すべきデータではないかと思っています。

 ▼ 資料の出典は、「医学部・医科大学の医学科における入試の在り方について」(林篤裕)

 実際、日本にも「メディカル・スクール」はあったわけです。(中略)東大と京大では1963年まであって、東大では最初の2年間の課程を卒業してから医学部を卒業するということがあったわけです。試験を受けたわけです。

 ですから、この場合の医学部というのは、今議論している「メディカル・スクール」と同じだということになります。(中略)

 最後でございます。

 「社会的共通資本」......、宇沢弘文先生がおっしゃっているように、医療と教育が財政危機で押しつぶされてはならないということですね。

 現状の医療提供体制160万床(と勤務医の業務体制)では、絶対数が不足しているということでございます。そして、どういう医師が不足しているのか、これは議論する必要がある。

 増員の方法と程度は検討が必要です。医学部の定員増加、医学部の新設か、「メディカル・スクール」か。

 そのタイムスケジュールですね、いったん決めたら未来永劫、増員し続けるのか。その中で、文部科学省と厚生労働省の緊密な連携が必要でございます。

 今日、(委員として)お越しの矢崎先生(国立病院機構理事長)もおっしゃっていますけれども、新しい発想の理想的な医学教育をするモデル事業が必要ではないか。まさに賛成でございます。

 ちょっと時間を(3分)オーバーしましたけれども、以上でございます。

[安西祐一郎座長(慶應義塾学事顧問)]
 堺先生、ありがとうございました。次に、済生会栗橋病院副院長の本田宏先生からご意見を伺いたいと思います。本田先生、よろしくお願いいたします。


【目次】
 P2 → 「要望の資料は引き続き努力させていただく」 ─ 文科省
 P3 → 「勤務時間に注目すると5.2万人足りない」 ─ 堺院長
 P4 → 「シンプルに計算すると12.5万人不足」 ─ 本田副院長
 P5 → 「医師需給は数の議論だけではない」 ─ 長谷川教授
 P6 → 「この国が医療費を100兆円使うのは難しい」 ─ 西村委員
 P7 → 「経済学者や私でなく国民が決めること」 ─ 本田副院長
 P8 → 「資料を提出させていただきました」 ─ 日医副会長

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