医師の不足数は2.4万人? 5.2万人? 12.5万人?
■ 「医師需給は数の議論だけではない」 ─ 長谷川教授
[安西祐一郎座長(慶應義塾学事顧問)]
それでは、日本医科大学教授の長谷川敏彦先生にお話しいただきます。よろしくお願いいたします。
[長谷川敏彦・日本医科大学主任教授]
長谷川でございます。大変重要な課題を日本のリーダーの皆様方と一緒に色々とお話しできること、大変ありがたく思っております。
文科省から頂いたテーマは諸外国の現在の政策や、まあ......、「お前がやった昔の医師の需給の問題はどうなってんだ!」ということをしゃべれというテーマでありました。
▼ 資料のタイトルは、「諸外国の政策や医師需給の考え方~ 3つの反省、3つの課題、そして総括」。
(諸外国の政策と医師需給の)両方とも大変大きな課題で、20分で話すのはほとんど不可能ですけれども、なるべく分かりやすく、「3つの反省、3つの課題、そして総括」ということでお話しできればと思っています。
(マイクが)なんかおかしいですね......。しゃべるなってことですかね......。(近くの委員ら、笑い) パワーポイント、出ませんね......。
皆さん、お手元に資料3で諸外国の現状についてかなり詳しく述べておりますので、それをご参照ください。(中略)
< 3つの反省 >
もう一度、医師需給問題を考えようということで、3つの大きな反省をしております。まず第1番は、いわゆる供給はいいんですけれども、需要の予測をすべきではなかったなと......。(中略)
2点目としては、国立長寿医療研究センター(総長の)大島先生に言われたのですが、「君、頭数だけで意味ないよ」と。これからの社会というのは、人類がかつて経験したことのない(超高齢)社会を日本はするんだと......。
そうすると、その時にどういうケアが必要で、どのような医者が必要で、もっと言えば、どういうチームが必要で......、それぞれどういう風に医者が役割を果たすんだと......。それを考えて数を考えるべきだと(言われた)。
2030年に日本は高齢者のピークを迎えるわけです、絶対数として。(高齢者の)数はさらに30年間伸び続けて......、まあ、分子が減りますから、2060年にピークを迎えますが......。(中略)
現在の医療というのは、19世紀の終わりにドイツを中心に発達してきた。平均寿命が50歳までで、単一疾患、単一エピソードをベースにした医療です。
従って、医療の目的も絶対治癒、絶対救命、そして治癒を目指すということが中心でした。しかし、平均寿命が85歳以上になり、そして疾病は多疾患になり、継続して繰り返し発症する。
つまり、19世紀に開発されたモデルがほぼ使えない社会に入っている。1980年ごろまでたまたまそれで......だったんでしょうけれども、もはや使えない。
特に、2030年の世界においては医療の目的も絶対救命、絶対治癒から、本人の求める機能をいかに支援していくか、つまり福祉とほぼ同じ役割をするという風に展開していくのではないでしょうか。
これまでの医療は主に急性期を中心に行われてきたが、これからは(高齢者に必要な)5つの異なるケアを考えていく必要があるのではないでしょうか。(中略)
▼ ①慢性期ケア、②急性期ケア、③回復期ケア、④長期ケア、⑤末期ケア。
これまでの急性期ケアから5つの異なったケアを目指し、それぞれのチームが必要で、そのチームがその中で医師の役割を考え直していく必要がある。
とりわけ、在宅ケア(長期ケア)や末期ケアにおいては量的な拡大が予想されますし、地域の診療所ケアにおきましても中身が大きく変わってくるのではないでしょうか。
反省3といたしましては(医師の個々人のキャリアパスを考慮していなかった)......、医師の需給を頭数で......、別々に考えていた。
プロというのは専門教育を受け、社会的な能力を追求し、最後は......という長期的なプロセスの中で自己実現していく職種であります。(中略)50歳を過ぎますと管理職か、開業するというオプションが現れてくる。(中略)
従って、これら3つの反省を踏まえまして、3つの提案を本日お話ししたいと思います。
< 3つの課題(提案) >
提案1としては、需要を計算するのは間違っていた。むしろ供給から医師のキャリアパスに基づくモデルを考えるべきではないか。
事実、イギリスではこういう計算をした上で、関係団体とお話しをして医師数を決めていくという手法を使っているようでございます。今回ぜひ、超高齢社会に見合った内容を考えた上で、想定していくべきではないかと提案したいと思っています。(中略)
例えば、女性(医師)の活動は出産などで低下する場合もある。あるいは最近の若年者の労働感から、労働時間が減るということもある。
あるいは最近聞いた、大変由々しき事態だと思うんですけれども、モラトリアムのような......。初期研修を終わった後に専門に......入らずに、健診とかコンタクトレンズのアルバイトをしているのが800人とか、2000人近くいるという噂も聞いたことがある。確認はしてないんですけど......。
そうであるとすると、振る舞いとしては病院に入っていく数が減っていくということになります。
これ(表)に簡単にまとめましたけれども、供給で不足の方向......、例えば、先ほど申し上げたようなフリーターとか、ワークライフバランスとか、女性が増えて産休が増えるという不足の方向と......。
逆に、女性を支援して働けるようにする、あるいは診療所への流出制限、あるいは院内の多職種の協働などは充足の方向に向くだろう。(中略)
結局、病院医師を確保するためには、医学部定員を増やす、あるいは医師総数を増やすことが必要ですけれど、そうすると最後は結局、診療所に溜まる構造が起きてくる。(中略)
まあ、こういうのを総合的に勘案すると、需給というのは......、バランスを考えるのは難しいことだと思います。
提案の2番目としては、以前から考えてきたことですが......。ご批判で、大変混乱している部分があると思うんですが、①「現在の不足数をどうするか」ということ(医療崩壊、病院崩壊)と、②「未来をどうするか」ということは分けて考えていただきたいと思っています。
もし、「現在足りない」ということがはっきりしているのであれば、それは待てない。そのオプションは実は3つしかない。(中略)
▼ 資料には、①輸入(中国医科大日本語課程卒業生数千人)、②再教育(歯科医2万人)、③生産性向上(外来逆紹介、役割変更、非看護職増)─の3つが挙げられている。
これら(輸入と再教育)の他に、あるいはこれらがないとすれば、なるべく生産性を高める。ITを使うとか、色々な議論がありますけれども、やはり外来の逆紹介を増やすのが大きいのではないでしょうか。
入院に関連した外来だけ、もしくは(病院は)紹介外来だけにして、現在6億人いる病院の外来患者を診療所に移すと、このようなバランス(病院外来2~3億人、診療所外来14億人)になって、それによって(病院の)標榜時間も少し減るのではないでしょうか。
実は役割分担を考えていくということで......。今、いろんな議論が進んでいると思います。しかし、日本はもはや(看護配置)「7対1」で......。(全体の)看護数はあまり変わらないですが......。
それ以外の職種、つまり非医師、非看護師の職種の数が他の国に比べて少ない。いろんな方法で経営の効率化が必要ですが、最後はマンパワーの増が必要。そういう方々の教育年限は短いので、医師(増)よりも早く効果が出ると考えています。
もう1つの課題は、なぜ医療崩壊が起きたのか。表面上は初期研修制度(の見直し)があったわけですが、その背景に「日本の医療の未分化性」が(ある)。それが、今回パチンとはじけたんじゃないかなと思われます。
と言いますのは、例えば病棟の中で診断から治療、治療から回復期まで担っていたが、その病棟の機能が変わってきた。その結果、その病棟の師長さんが大きく変わってきて、病院全体のシステムが変わってきたんじゃないか。
つまり、医療崩壊というのは、いろんな医療マネジメントのレベル、地域や病院や臨床レベルで、それぞれの関係性が変わってきたんじゃないか。
患者さんとの関係、職種間の関係、施設間の関係......。その関係がきしんだり、ねじれたり、そして断絶したりして崩壊が起こったんじゃないか。
従って、個人の技ではなくチームとして、組織としてもう一度システムを構築し直すことが大切ではないでしょうか。
提案3として質の問題。「需要に適応していない医者をなんぼつくっても足りない」ということ。従って、これからの医学教育が重要で......。現在も知識の膨大化など大きな課題を抱えているんですけれども、超高齢社会に対応した新しいモデルの教育が必要です。(中略)
< 3つの総括 >
まとめになりますが、2006年推計については、これまでの様々な需給の検討委員会の方法論を踏襲してやったものですが、その中では最も精緻なものだったと自負しています。
ただ、目の前に人類未曾有の超高齢社会を迎えて、モノの考え方やとらえ方を根本的に変えていく必要があると今は思っています。
2つ目。需要を考える場合......、「日本人の健康のために医者を何人つくるんだ」という課題です。同時に個々の医師がプロとして誇りを持って仕事をして、協力し合って患者さんの役に立って最後は満足して生涯を終えるようなシステムを効率的に考える必要があるのではないでしょうか。
短期的現象にとらわれて長期的課題を解決するのは危険なことのように思われます。(中略)長期的な課題と短期的な課題に分けて対応する必要があるということです。
最後に......。
近年、高齢社会と少子社会です。毎年生まれてくる子どもが少ない。(中略)現在、新卒者の20%が看護師になると聞いていますし、そのようにどんどん増えてまいります。
医療セクターをそのように......、人材投入にお金を使っていいのかという議論が一方であります。しかし一方で、雇用促進についてはこの(医療)セクターが一番いいということになっていますので、その辺をどのように考えていくのか。
そして、医師需給の課題というのは数の議論だけではなくて、医師のキャリアを支える総合的な政策を同時に施行することが必要で、他の職種とも連動する必要があるのではないか。
実は、薬剤師がOECDトップの人数になっています。これをどのように生かしていくかということも大きな課題ではないでしょうか。
以上、短時間でしたので概要をかいつまんで申し上げましたが、詳しいことは資料をご覧になっていただければと思います。どうもありがとうございました。(委員から拍手)
[安西祐一郎座長(慶應義塾学事顧問)]
ありがとうございました。
【目次】
P2 → 「要望の資料は引き続き努力させていただく」 ─ 文科省
P3 → 「勤務時間に注目すると5.2万人足りない」 ─ 堺院長
P4 → 「シンプルに計算すると12.5万人不足」 ─ 本田副院長
P5 → 「医師需給は数の議論だけではない」 ─ 長谷川教授
P6 → 「この国が医療費を100兆円使うのは難しい」 ─ 西村委員
P7 → 「経済学者や私でなく国民が決めること」 ─ 本田副院長
P8 → 「資料を提出させていただきました」 ─ 日医副会長