文字の大きさ

ニュース〜医療の今がわかる

福島県立大野病院事件第三回公判

 検察側が思ったほどポイントを取れなかったと思われるのは、先ほどの裁判長質問からも伺える。しかし繰り返しになるが、なぜ証人が皆、検察のイリュージョンに加担するような供述調書を取られているのか。本当に警察・検察が一方的に悪いのだろうか。

 最後にこの日の公判でほとんど登壇しなかった女性検察官が追加尋問を行った。察するに、この検事がH医師の調書を作成したらしい。失礼ながら、このやりとりは、大人が子どもを「ダメでしょ」と諭しているようだった。

  検察 検察官の取調べで、断定できないところでも断定するように取られたという証言ですが、その場では訂正を申し立てなかったのですか。
  H医師 申し立てたかもしれません。覚えていません。
  検察 自信の無い部分も断定的にされたと。
  H医師 断定的に書かれました。
  検察 調書の内容を確認した方法ですが、まずプリントアウトしたものを渡されて黙読し、同時に検察官が音読するという方法で確認しませんでしたか。
  H医師 はい。そういう方法でした。
  検察 違うと思うところがあれば言ってください、と言われませんでしたか。
  H医師 はい。言われました。
  検察 何度か申し立てをして訂正するところを訂正しませんでしたか。
  H医師 はい。
  検察 その後で清書に署名捺印をしたのではなかったですか。
  H医師 はい。

 H医師からすれば、「客観的事実に照らして判断してください。照らすべき事実がないなら『疑わしきは被告人の利益に』でしょ」という心境ではないかと推察する。だが現在の司法ルールでは
いったん署名捺印してしまったなら、それは証拠能力を持つのだ。立場を引っくり返した検察側が
(そもそも事件の見立てがおかしいという問題はさておき)きちんと手続きしたのに、なぜ揃いも揃って証言を翻すのかと、怒り心頭になるのも分からないではない。

 要するに、司法ルールを当然のことと考えて行動している人たちから見ると、医療者の「司法リテラシー」は低すぎるのであり、一体どういう発想で動いている職業集団なのか理解不能だと思う。トラブルに巻き込まれないためにも、医療者は、もう少し世の中の動きに関心を持って、一般の社会人として振舞うことも考えた方が良いと思う。

 ただし、一方の患者サイドから見た場合、医療者に司法リテラシーを求めるのが果たして良いことなのか。

  • MRICメールマガジンby医療ガバナンス学会
loading ...
月別インデックス